列車は窓の外にほとんど灯りの見えない闇の中を走っている。時々停車場に止まり、まばらな乗客が下りて行く。今は先頭車両はぼくたちだけになってしまった。でも仲間がいれば安心だ。ぼくたち、というのは二十人ばかりの子供たちと、ぼくを含めて引率の数人の大人だ。はじめのうち大はしゃぎだった子供たちも、今は全員、すっかり眠ってしまった。ぼくの両側にも、小さな頭をぼくにもたせ掛けて低学年の子供が眠っている。ぼくたちよりは少し高い体温を感じていると、ほっと安らいだ気持ちになる。ぼくも今のうちに眠っておこう。明日から、山の中の小さな村で「夏の学校」が始まる。
…これはぼくにとってはかなり特異な夢だ。夜の列車に乗っている夢はしょっちゅう見る。でもいつもぼくは一人で、しかも行き先が分からず、今どこにいるのかもわからない夢ばかりだ。その夢の中でぼくはいつも不安や寒さに震えている。今朝の夢も、そのように始まった。だが、途中で変化した。
列車に仲間といる夢、しかも子供たちといる夢、その体温の温かさを感じてほっとしている夢というのは、まったく記憶にない。夢から覚めてしばらくの間、その余韻が薄れるのが惜しくて起き上がれなかった。
これは何かの変化の兆し、もしくはきっかけだろうか? 過去に何度か、あとになってあれが自分の転換点だったと気付くような夢を見ている。そうありたいものだ。ここのところぼくは鬱々と日々を過ごしていた。