すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

夏の学校

2022-03-24 14:04:30 | 夢の記

 列車は窓の外にほとんど灯りの見えない闇の中を走っている。時々停車場に止まり、まばらな乗客が下りて行く。今は先頭車両はぼくたちだけになってしまった。でも仲間がいれば安心だ。ぼくたち、というのは二十人ばかりの子供たちと、ぼくを含めて引率の数人の大人だ。はじめのうち大はしゃぎだった子供たちも、今は全員、すっかり眠ってしまった。ぼくの両側にも、小さな頭をぼくにもたせ掛けて低学年の子供が眠っている。ぼくたちよりは少し高い体温を感じていると、ほっと安らいだ気持ちになる。ぼくも今のうちに眠っておこう。明日から、山の中の小さな村で「夏の学校」が始まる。

 …これはぼくにとってはかなり特異な夢だ。夜の列車に乗っている夢はしょっちゅう見る。でもいつもぼくは一人で、しかも行き先が分からず、今どこにいるのかもわからない夢ばかりだ。その夢の中でぼくはいつも不安や寒さに震えている。今朝の夢も、そのように始まった。だが、途中で変化した。
 列車に仲間といる夢、しかも子供たちといる夢、その体温の温かさを感じてほっとしている夢というのは、まったく記憶にない。夢から覚めてしばらくの間、その余韻が薄れるのが惜しくて起き上がれなかった。
 これは何かの変化の兆し、もしくはきっかけだろうか? 過去に何度か、あとになってあれが自分の転換点だったと気付くような夢を見ている。そうありたいものだ。ここのところぼくは鬱々と日々を過ごしていた。

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戦争と平和

2022-03-13 09:55:43 | 社会・現代

ロシア語では
「平和」と「世界」は
同じ一つの単語ⅯИР(ミール)
なのだそうだ
だからトルストイの「戦争と平和」は
「戦争と世界」でもあるのだそうだ

世界と平和とを同義と考えた
ロシアの民衆を
ぼくは尊重したい

愚かな皇帝や取り巻きたちの妄執や妄想が
兵士に武器を持って殺すことを命じる
だが民衆の素朴な意志の力が
歴史を作ることだってできる

ぼくたちはそれを応援し
信じ 祈ろう

プーチンは侵略を開始したと同時に
平和も世界も失ったのだ

ウクライナの野は
今はまだ雪の中だ
だがもうすぐ 畑を起こし
麦の種を蒔く季節がやってくる

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ウクライナ

2022-03-09 20:22:03 | 社会・現代

 舞踊家ニジンスキーはウクライナのキエフで1890年にポーランド人の両親のもとに生まれた。ただし、そのころウクライナという国はなかった。
 キエフ公国は13世紀にタタール人に侵攻によって崩壊し、その後は他国の支配と独立運動との繰り返しの長い苦難の時代が続いた。現在のウクライナが共和国として独立したのは1917年。22年にソ連に加盟。1991年に「ウクライナ」として再独立。苦難の歴史がやっと終わって平和が訪れたかに思われた。独立時は世界3位の核保有国だったが、その後完全に廃棄した。
 急いで書いておくが、ぼくはもちろん、「プーチンの言うことにも一理ある」などと主張したいわけではない。ロシアは直ちに無条件に侵略を止めて兵を引かなければならない。
 ウクライナは、ほかの東欧・中欧諸国同様、周辺の国々の力関係の綱引きの中で、繰り返し侵略・併合・分割されることを余儀なくされてきた。歴史上有名な「ポーランド分割」で悲劇の国とされたポーランドでさえ、ウクライナ西部を支配していた時代が長い。ニジンスキーがキエフで生まれた、というのもそのためだろう。彼が生まれたとき、キエフはロシア帝国に支配されていた。
 そうした歴史の中でやっと勝ち得た独立は、そして核廃棄にみられる平和への意志は、何よりも尊重されなければならない。

 今回のロシアの暴挙の報道の中で繰り返し映し出されるウクライナの国旗を見て、小麦畑あるいはヒマワリ畑と青い空、よりも先にぼくがすぐに思い浮かべたのは、「風の谷のナウシカ」だった。

  (樹々を愛で 虫と語り 風をまねく鳥の人)
  その者 青き衣をまといて
  金色(こんじき)の野におりたつべし

 あってはならないことだが、もし仮に、ウクライナが今いちどしばらくの間、ロシア帝国主義に膝を屈する事態になった場合も、ぼくたちはあの青と黄色の国旗を、平和を希求する不屈の意志の象徴の色として心に刻み込むことにしよう。

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白い花

2022-03-06 21:00:08 | つぶやき

しゃがみ込んで見上げると
空が青い
人は去って行った
君の唇の端を一瞬だけ
微笑みの素描が過り
それを打ち消すように
君は軽く首を振り
そして
ゆっくりと立ち上がる
自らを嘲るのは
まだ早い
終りまで歩き通すべき
残りの道がある
そいつは
そう悪いことでもない
木の花が白い

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2022-03-03 06:58:37 | 詩集「黎明」

都市が滅びてから数百年の後
森の外れの巨大な樫の木の下で
老人は一人の子供に出会った

その子供とは昔
まだ動物たちが地上に現れる前
確かに会ったことがある 
生命をはぐくみ始めた海が
厚い雲の下で逆巻いていた頃

その時 子供は振り向いて
驚いたように手を止め
美しい眉をひそめ
身を翻して立ち去っていった
子供の去ったあとに
芽生えたばかりの小さな木があった

それから幾度か
老人はその子供の夢を見た
羊歯の密林を巨大な足の生き物が
獲物を求めてさまよう夜や
やっと農耕を覚えたばかりの人間が
焚火を囲んで寒さに震えていた雨の夜に

呼びかけようと手を伸ばすたびに
もう子供の後姿は消えていた
目覚めてから老人は気付くのだった
自分が何かを尋ねようとしていたことに
その問いが何かは分からなかったが

今 森の中で廃墟は
蔓草に覆い尽くされ
少しずつ土に還っていく
子供は初めて立ち止まり
老人に微笑みかけた

永い間の思いを問いにしようとすれば
自分の見てきたものを残らず
一瞬にして伝える術を知らねばならない
言葉というものの記憶を
やっとたぐり寄せながら
老人は縺れた重い唇を開いた
――お前なら知っているかもしれない
この地上にこれから
どのような生き物が栄えては滅んでいくのか
その繰り返しはまだ永く続くのか
この惑星はこれから
どのような闇の中を落ちていくのか
人間を滅ぼしてしまったのは
お前の残酷な意思だったのか
いったいこの次 いつどこで
お前と出会うことになるのか――

子供は何も答えず
ただ さわやかな声で笑った
そして紅い唇を拭いながら
樫の木の上の空を指さした

いつのまにか暮れた空に
星が暗く耀く
その瞬間に老人は知った すべての星が
この地から無限に遠ざかっていくのを
幾百億光年の彼方では
光の速さに達した星が
叫び声もあげずに消え去っていくのを
                  (旧作)

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