すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

待つ

2022-07-26 09:27:32 | 自然・季節

海まで続く平野を
埋めつくしたヒナゲシの花が
予感のように
わずかに紅を褪せさせる

それから二・三週間後には
海はもう 手のつけようのない
散り乱れる光の洪水に変わっている

焼けつく地表から逃れようと
数知れぬカタツムリが
枯れかけた草に這い上がる頃
(彼らはみなそこで死に
 殻だけが残る)

すでに人影の絶えた丘陵を
砂まじりの熱風が寄せてくる
天と地の間のすべてのものを
押し包み窒息させるために

ふたたび雨が降りそそぐまでの
いつはてるとも知れぬ長い時の間
            (樋口悟「待つ」再録)

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流れよ流れ

2022-07-18 10:56:25 | 山歩き

流れよ流れよ
できることなら
お前を抱きしめたい
無数の小さな滝となって
岩を駆け下る流れよ

ひと時も留まらずに
ひと時もためらわずに
白い泡となって走る流れよ

お前の傍らで眠りたい
お喋りを聞きながら眠りたい
お前はきらめき光り輝き
ひっきりなしに喋りながら流れる

お前が何を言っているのか
ぼくには分からないけれど
耳を傾けているだけで
心は喜びに溢れる
お前が大好きだ

ぼくになど目もくれず
永遠に向かって走り去る

青い冷たい流れよ

 

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君と歩いた

2022-07-13 13:19:53 | いのち

川岸の小道を
二人黙って歩いた

川はゆるやかに曲がりながら
両側の山並みの間を
広い谷になって下る

幾つもの橋を越え
何時間も歩いた

何か話すと
君がいなくなってしまうような
気がして

わずかな田んぼに
穂になる前の
明るい稲が育ち

口に出しにくい
言葉もあった

クルミの並木
繁り放題のクズの土手
萎れたマツヨイグサ

まるで影のような君
本当に隣にいるのか

時々 前方に遠く高く
まだ雪のわずかに残る山

何時の間にか日が傾いて
夕風が起こり
君が立ち止まる気配がした

急いで振り向くと
君はもういなかった

ひとつだけ 勇気を出して
訊けばよかった
ぼくを許してくれるか と

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ホーム

2022-07-12 14:04:15 | つぶやき

いま確かに 視野の端の
天空に架かる橋を
白いものが通って行った

人の魂か
天使か
幻か

急いで振り向いたが
渓谷に橋は無かった

秘境の駅のホーム
夏空を見上げて
ぼくは茫然と立ち竦む

ここから先には行けない

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滑落(木曽駒ケ岳ー続き)

2022-07-06 17:46:23 | 山歩き

(6/30)今日の記事は、実はかなり書きにくい・・・それに、ぼく自身、木曽駒の話題はもう切り上げたい(飽きた)。でもまだ少し、書いておかなければならないことがある。
濃ヶ池付近から見上げる乗越浄土。お椀型の中央にちょこっと尖っているのが、宝剣岳。そのすぐ右の(小さすぎて見えないだろうけど)青い点が宝剣山荘。赤い点は天狗荘。あそこから右手の稜線をたどってここまで来た。ここから、こんどは雪渓をいくつも越えて山腹を戻って行かなければならない。あそこまで2時間半くらいか?
 駒ケ岳の山頂まではゆるやかな道だ。途中、中岳の南斜面には高山植物がけっこう咲いている。いったん「駒ケ岳頂上山荘」まで下る。山荘は開業は明日からだが、テント場にはすでにテントがいくつか。ゆるやかに木曽駒に登り返す。ライチョウ保護の人があっさり追い越してゆく。
駒ケ岳山頂の神社。伊那側と木曽側の二つの神社が少し離れててんでの方向を向いて建てられている。石を積み上げるだけで大変な労力だろうに、信仰とは不思議な、おかしなものだ。
 ここから北東に、馬の背の稜線を下ってゆく。45年前には軽々と登った道を、喘ぎながら下っていく。森林限界を超えているので展望絶景だが、真上からの日光がきつい。「こんなに遠かったっけ?」と思いながら進む。そう感じるのは体力が落ちているせいだ。右下に濃ヶ池が見えてほっとする。が、そちらに入る分岐点までがまた遠い。ハイマツの小さな日陰に体を丸めて休みながら、けっこう山頂から2時間近く掛かってしまった。
 さて、ここからが問題だ。出発するとき小屋のお姉さんに道の状況を訊いた。「雪渓がいくつかあってトラバース(横断)しなければなりません」「チェーンスパイクとストックは持っているのですが」「それなら大丈夫でしょう。でも気を付けて行ってくださいね。滑ると、かなり下のガレ場まで落ちることになりますから」「わかりました。様子を見て引き返すかどうか判断します。ありがとう」。それでここまで考え考え歩いてきた。とりあえず池までは行く。それからどうするか?
 分岐からの道はほぼ水平で、森林限界の下に入ったのでいちおう日陰で涼しい。(冒頭の写真はこのあたり。)雪の重みで曲がったダケカンバが新緑と言うよりはまだ芽吹いて間もない柔らかな緑で、道に頼りない日陰を作る。それに混じってタカネザクラが遠慮がちに下を向いた花を咲かせている。濃ヶ池は中央アルプスでただ一つの氷河湖なのだそうだ。今は雪渓が流れ込んで半分埋まっている。ただ、近年どんどん乾燥化が進んで小さくなっているらしい。
濃ヶ池。道は雪渓と水面との境を通っている。
 さて、行くか戻るか判断しなければならない。今来た尾根道を引き返すのは、すでに(ここで10:00)気温が上がっているからかなりしんどい。雪渓がどんな様子だか見てみたくもある。だが、行ってみて渡れそうもないから引き返す、というのはさらに大変になる。迷ったが、冒険心が勝った。
  池に続く湿地帯を越えて間もなく、最初の雪渓。これは幅は狭い。雪渓は登ったり下ったりは怖くないが、トラバースするのは相当怖い。左右の斜面にストックを突き刺し、踏み跡があるから正確に足を載せて、一歩一歩チェーンスパイクを踏み込んで確かめてから進む。だがここ数日間の暑さで雪が融けてシャーベット状になっている。何回か踏み込んでも滑りそうになる。スパイクが効きづらい。渡る間息をつめて緊張している。一つ目を渡って、「うん、これならなんとか行けそうだ」と思った。
最初の雪渓を渡ってから振り返る。
 雪渓は、下のガレ場まで落差の相当あるもの、下が枯れた藪のもの、頭上が恐ろしげな岩のもの、など色々。幅はだんだん広くなった。6つ目が、かなり広くて急だった。「まだあるのかよー」と思った。渡り終える手前に、誰かが滑落した跡があった。それをまたいで左足を出した瞬間に、大きく開いた足が滑った。
 あっ、という間に滑落していた。「やっちゃった!」と思った。ストックで必死に制動をかけようとしたが(飯豊の石コロビ雪渓でピッケルで止めたことはあるが)、ストックでは止まらない。ただ、落下速度はある程度は抑えられたことと思う。落ちて行く先がちらりと見えた。岩や藪ではなく、草地だ。そのままずるずると落ちて、枯草の上に放り出された。左の腰とあばら骨を打ちつけた。
 呻きながら立ち上がり、体についた雪と枯草と土を払った。幸い、体は動く。どこも折れたり切ったりはしていないようだ。30mほど落ちた。距離が短くて、岩でなくて助かった。雪渓の脇の急斜面を、登山道まで喘ぎながら登り返した。
手前がぼくの滑った跡。
 そのあともう一つ、もっと幅の広いのがあったが、もう渡る気になれず、下まで降りて向う側を登ることにした。降りたところに、登山道の消えかかった古いペンキのマークが上に向かっていた。地図で難路を示す破線になっている、沢沿いに登ってくる長いコースだ。元の登山道と合流し、道はさらにぐんぐん登って行く。左手にもう一つ、今までで一番急峻な雪渓があって、「あそこは渡れないぞ。どうする?」と思っていたが、それもハシゴで高巻いていて、ほっとした。またライチョウ保護の人に出会った。「サルが上がってこないように監視しています」と言う。その上は「駒飼ノ池」。前方に天狗荘が近い。あと40分ぐらいだ。
 ここでゆっくり休んでお昼を食べ、乗越浄土に登り返して千畳敷に下った。大きな荷物を担いで八丁坂を登ってくる若い人がいっぱいいた。頂上山荘前にテントを張って7月1日のご来光を迎えようという人たちだ。老人は一足先に山を下る。

反省点:①若い頃とは全然違うということを、もう一度頭に叩き込むべきだ。今回のはファミリーコースのはずだが、そう思ってかかってはいけない。
②危険個所を通過しきるまでは、一瞬でも気を抜いたり気を逸らしたりしてはいけない。
③チェーンスパイクは便利だが、歯が浅いので、雪渓のトラバースはアイゼンでしたほうが良い。
④ヘルメットを携行したほうが良い。
⑤ぼくはそろそろ、単独行ではなく誰かと登るようにした方が安全だ。

 (今6日目。脇腹の打撲はまだちょっと痛い。念のため医者に行った。ひびが入ったりはしていないそうだ。長文を読んでくださってありがとうございます。)

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木曽駒ケ岳

2022-07-04 21:42:36 | 山歩き

 (6/29)木曾駒には昔2回行ったことがある。30歳前後、ほぼ45年前だ。一回は友人と2人で、伊那側の麓の桂小場から登って南に縦走し、空木岳から東に池山尾根を駒ヶ根に下った。二回目もほぼ同じコースだが、ソロで、西に木曽側に下った。体力が一番有った時期だ。稜線上でいくらでも登山客を追い抜けるのが楽しかった。今回は、行きも帰りも2600mまでロープウエイを利用するファミリーコース。それでも、今の体力ではかなりきつい。
 昔の山の旅の名著などを読んでいると、今ではすっかり変わってしまって昔のような味わい深い旅は不可能だ、というように思うが、まあ、バス路線が発達し、ロープウエイができ、小屋が整備されたおかげでぼくのような老人でも標高3000mを楽しむことができるようになったのも事実だ。
 千畳敷は高山植物と紅葉で名高い場所だが、ここから登るのは初めてだ。昔は「あそこから登るなんて」、と馬鹿にしていたのだ。いま、老いた体を一歩一歩持ち上げていくと、ここがいかに美しい場所なのかが良く分かる。見向きもしないで登山客を追い抜いて行った自分の心の無さが良く分かる。それだけでも、歳を取るのは悪いことじゃない。
 ロープウエイを降りてまだ雪の残る道を20分ほど歩くと、「八丁坂」と呼ばれる急登が始まる。登山道のすぐ脇を雪渓が伸びている。「あっちを直登したら気持ち良いだろうな」と思うが、たぶんここ数日の暑さで雪がぐずぐずになっているだろう。
急登の途中、「オットセイ岩」を横にみるあたりから、高山植物が現れた。まだ無理かな?とあまり期待していなかったので、うれしい。

急斜面の途中、ロープウエイ千畳敷駅を振り返る。左手がオットセイ岩。
そのアップ。右側の,いつ剥がれ落ちてもおかしくなさそうな岩の下を登山道が上がっている。
 急登が始まってから今のぼくの足で1時間ほどで稜線の「乗越浄土」だ。涼しい風が吹いて、すぐ左手に今夜泊まる「宝剣山荘」が見える。受付を済ませ、部屋に荷物を置いて宝剣岳に向かう。ほんの30分ほどだが、慎重に登らなければならない困難な岩場だ。
宝剣の岩場の核心部
 両手両足を使って三点支持で岩場を登るのは好きだ。今はかなり悪くなっているが、体に関して唯一ぼくが自信を持てたのはバランス感覚だった(大学時代、文学部の4階建ての本館の屋上の手すりの上を一周したら1000円、という賭けをして勝ったことがある)。要所要所には鎖が張られているが、若い頃からなるべくクサリには捉まらないで登ることにしている(ハシゴは無理)。もちろん、フリークライミングとか岩登りをしていたわけではないから一般登山道での話だし、捉まらなければ無理なところはある。槍ヶ岳から前穂高岳まで縦走したことがあるが、一回だけクサリに頼らなければ越えられないところがあった。
 歳とってバランスが悪くなった今は、岩場よりもむしろ、足だけで歩く痩せ尾根の下りが怖い。疲れて足がもつれたり躓いたりしたら転落しそうな場所はある(例えば八ヶ岳の阿弥陀岳からの下り)。岩場はむしろ安心で、怖さよりは喜びの方がずっと大きい。
宝剣岳山頂
山頂から見る三ノ沢岳。高山植物の宝庫の静かな山だという。縦走路から外れた孤高の雰囲気が良い。
空木岳に続く縦走路。45年前はあれを越えて降りた。
 山頂で展望を楽しみながらおにぎりを食べた。南アルプスの連嶺の向こうに富士山。八ヶ岳。奥秩父。北アルプスは残念ながら雲の中。写真を撮ったが、ぼくの腕では、遠く何が何だかわからないものになってしまったので、ここに載せるのはやめておく。
 小屋に戻って、まだ早いので伊那前岳方向に行ってみる。だが、遥か前方に赤いジャケットを着た人が3人いて、近付いたら止められた。ライチョウの親と孵ったばかりのヒナを保護のためにケージに向かって誘導しているという。遠くから眺めるだけにした。
 ライチョウは中央アルプスでは一度絶滅したのだが、近年乗鞍岳から移住させるプロジェクトが始まり、はじめのうちはヒナがかえってもテンなどに襲われて生き残ることができなかった、のだが、今では生まれてから1カ月ほどケージで保護することにして少しずつ生息数と場所が増えているのだそうだ。大変な活動だが、ぜひ成功してほしい。
ライチョウをケージに誘導する作業中の人たち
 宝剣山荘は夏場には満員になる小屋らしいが、今夜は8人だけ。そのうち6人はライチョウ保護活動の人であと1人は新聞社の取材の人。一般客はぼく1人だけ。布団が新しくきれいでフカフカでうれしい。くたびれて星空も見ないで熟睡した。(続く)

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木曽駒ケ岳の花

2022-07-03 09:28:57 | 山歩き

 6月29日、千畳敷。まだ所どころに雪が残る。カールの平地にはまだ花はほとんど咲いていない。この暑さで雪はどんどん解けているから、花咲き乱れるお花畑になるのはもうすぐだ。

 稜線に上がる急斜面「八丁坂」の途中:

 イワカガミ(岩鏡)

ツガザクラ(栂桜)

オオツガザクラ(大栂桜):ツガザクラとアオノツガザクラの雑種。写真が下手でわかりにくいが、ツガザクラの方がピンク色が強く、やや小ぶり。

ハクサンイチゲ(白山一花):優雅に美しい。花びらに見える白い部分はガク。

ミヤマキンバイ(深山金梅):花弁の中の赤みが可愛いい。

 木曽駒ケ岳山頂から北東に下る「馬の背」の稜線:

キバナシャクナゲ(黄花石楠花):ハイマツを風よけに利用するようにくっついて、あるいは割り込んで咲いている。

オヤマノエンドウ:(御山の豌豆):今回はこれが圧倒的に多かった。コマクサなどの咲くのはもう少し先か。

ヒメウスユキソウ(姫薄雪草):エーデルワイスの仲間で最も小さく、直径約2㎝、かわいい。中央アルプス特産。別名コマウスユキソウ(駒~)。

イワツメクサ(岩爪草):花びらが10枚に見えるが、5枚が深く2裂しているのだそうだ。

 濃ヶ池を経由して宝剣山荘に戻る道(森林限界に近いダケカンバ林の中):

ナナカマド(七竈):秋にはあんなに鮮やかな紅に染まる高山の紅葉の代名詞も、今の時期はこんなに清楚な花をつける。


タカネザクラ(高嶺桜):ダケカンバに混じって下向きに可憐に咲く

 今回はまだ高山植物の最盛期前だが、それでもこんなに美しい花が咲いている。人があまりいなくて静かに鑑賞できるのも良い。すでに陽射しは強烈だったが。

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