まだ若いカエデの葉を
小刻みに震わせながら
林の道はひっそりと続いている
この道はいつか来た道
季節もたしか今頃
浅い谷に透明な水が流れ
道の辺に
ガクウツギやクサイチゴが
先へ先へと招いている
花の白は
安らぎと
無垢
それが不可能な願いならば
せめて
浄化
思い出そうとして思い出せないことは
起こったのではないことだ
忘れてしまいたいことは
忘れてしまうほうが良い
白い花に招かれるままに行ったら
この道の果てに
母が待っている?
幼年のぼくに会える?
それとも道は
さらにその先
暗い峠を越えて
生まれる前に続いている?
それともぼくは歩きながら
別の時間の入り口を
探しているのだろうか?