2日(金).わが家に来てから今日で975日目を迎え,天皇陛下の退位を実現する特例法案が1日,衆院議員運営委員会で審議入りし,菅義偉官房長官が特例法案について「天皇陛下の退位を実現するものであるが,将来の先例となり得る」との見解を表明したというニュースを見て感想を述べるモコタロです
皇太子殿下だって たまに「交代してんか?」と言いたくなる時もあると思うよ
昨日,夕食に「鶏のトマト煮」と「生野菜とアボカドのサラダ」を作りました 「鶏の~」は完璧です
昨日,新国立劇場でワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」第2日「ジークフリート」を聴きました キャストは,ジークフリート=ステファン・グールド,ミーメ=アンドレアス・コンラッド,さすらい人=グリア・グリムスレイ,アルべリヒ=トーマス・ガゼリ,ファフナー=クリスティアン・ヒューブナー,エルダ=クリスタ・マイヤー,ブリュンヒルデ=リカルダ・メルべート,森の小鳥=鵜木絵里,九嶋香奈枝,安井陽子,吉原圭子(なぜ4人もいる?),管弦楽=東京交響楽団,指揮=飯守泰次郎です
ジークムントとジークリンデの遺児ジークフリートはアルべリヒの弟ミーメに育てられ,強い若者に成長する 一方,巨人兄弟の弟ファフナーは大蛇に姿を変えて財宝を守っている ミーメはジークフリートに大蛇を退治させ,財宝を奪おうと画策する.ジークフリートは昔,決闘で砕かれた名剣ノートゥングを直し,大蛇を退治し,指環と隠れ頭巾を手に入れる さらに,自分に毒を盛ろうとしていたミーメを斬り倒し,小鳥に導かれてブリュンヒルデの眠る岩山へ向かう.途中でさすらい人(ヴォータン)に出会うが,剣で彼の槍を折り,先に突き進む.そして,炎を超えブリュンヒルデを目覚めさせ,二人は永遠の愛を誓う
私が新国立オペラの「ジークフリート」を聴くのは2003年の東京リング(準・メルクル+N響),2010年の公演(ダン・エッティンガ-+東京フィル)に次いで今回が3回目です 今回は日本におけるワーグナーの権威・飯守泰次郎の指揮で,オーケストラピットに入るのは いつもの東京フィルではなく東京交響楽団です 滅多にないこの組み合わせに期待が高まります
開演時間の午後4時ジャスト,落とされていた照明が再度灯され2階席から拍手が起きました 1階席前方の聴衆も見上げて拍手をしています.ほぼ間違いなく皇室の誰かが来場したのでしょう プルミエ(初日)公演ではしばしばこういうことが起こります.自席は2階席のほぼ真下に近い席なので見えません 拍手が止んだと思ったら,おっとり刀で爺さんが1階席ど真ん中の席に着きます.ロイヤルより後に登場するロートルは相当の大物です
ロマンス・グレイの飯守泰次郎が指揮台に上がり,第1幕が開きます ゲッツ・フリードリヒの演出・舞台はシンプルですが,相当の傾斜舞台です 歌手陣は息の長い歌を歌いながら舞台をあちこち行き来しなければならないので,観ていて大変そうです
ジークフリートを歌ったステファン・グールドは2015年に開始された新国立オペラの「指環シリーズ」で,ローゲ,ジークムント,ジークフリートですべての公演に出演します アメリカ・ヴァージニア生まれのヘルデン・テノールですが,強靭な声とほぼ出ずっぱりにも耐え得る体力に恵まれています 歌唱力は申し分ないのですが,相当な体重がありそうなので,傾斜舞台を動き回るのは少し辛そうです
ミーメを歌ったアンドレアス・コンラッドはドイツ・マグデブルク生まれのテノールですが,バイロイトでもミーメを歌った経験のある実力者で,自らの欲求を満たすためにジークフリートを育てる,表も裏もあるニーベルング族のミーメを見事に歌い,演じました
さすらい人(実はヴォータン)を歌ったグリア・グリムスレイは,新国立オペラの「ワルキューレ」のヴォータンを歌いましたが,私にはリヒャルト・シュトラウス「サロメ」のヨハナーンの印象が強く残っています アメリカ出身のバス・バリトンですが,声自体に力があり,一度聴いたら忘れられない魅力を持っています
アルべリヒ(ミーメの兄)を歌ったトーマス・ガゼリはドイツ・カールスルーエ出身のバリトンですが,この人も声に力があります ヴォータンに恨みを抱く狡猾なニーベルング族のアルべリヒを巧みな演技力で歌いました
巨人族の一人ファフナーを歌ったクリスティアン・ヒューブナーは,新国立では15年の「ラインの黄金」でファフナーを歌っています ドイツ・レーゲンスブルク生まれのバスですが,今回はメルヘンチックで巨大な蛇に変身して登場して聴衆を驚かせました.本人も驚いたでしょう
ブリュンヒルデの母・エルダを歌ったクリスタ・マイヤーは,新国立では15年の「ラインの黄金」でエルダを歌っています ミュンヘン音楽・演劇大学で声楽を学んだアルト歌手です.出番は少ないのですが,とても印象に残る歌唱力です
ブリュンヒルデを歌ったリカルダ・メルべートは新国立オペラではお馴染みのソプラノです モーツアルト「コジ・ファン・トゥッテ」フィオルディリージ,ワーグナー「タンホイザー」エリーザベト,「ローエングリン」エルザ,「さまよえるオランダ人」ゼンタに出演しています ドイツ・ケムニッツ生まれで,ウィーン国立歌劇場専属歌手も務めました.第3幕だけの出演ですが,最近は存在感が増してきました
今回の演出で驚いたのは,森の小鳥が4羽も出演したことです 通常は1羽か,あるいは歌声だけの出演(舞台裏で歌う)かどちらかです 4人の歌手はセクシーな衣装で登場し度肝を抜かれましたが,衣装の色が違い,鵜木絵里(黄),吉原圭子(白),安井陽子(赤),九嶋香奈枝(緑)という順番に出演しました それぞれ持ち味を生かした歌唱でしたが,何と言っても安井陽子が抜群に上手かったと思います 第2幕のフィナーレでジークフリートが4羽の小鳥に導かれてブリュンヒルデの元へ向かうシーンは感動的でした これが1羽だけだったら淋しい旅立ちになっていたでしょう
さて,今回の公演で歌手陣に負けず劣らず素晴らしい活躍をしたのは,飯森泰次郎指揮東京交響楽団です 休憩時間を含めて5時間40分の間,終始緊張感を絶やさず,時に歌手たちに寄り添い,時に自ら彼らのライトモティーフを,分厚い管弦楽で表出していました
ところで,字幕で気になったことがあるので書いておきます 第1幕でのミーメとジークフリートの会話シーンです
ミーメ:大蛇のねぐらはナイトヘーレと呼ばれている.東の方,この森のはずれの見当だ
ジークフリート:そうすると,そこから”世間”は遠くないな?
ミーメ:ナイトヘーレは”世間”と目と鼻のところだよ
ジークフリート:だったらそこへ連れて行ってくれ.恐れというものを学んだら,広い世の中へ出ていくんだ
上記のうち「世間」という言葉に違和感を感じました.休憩時間にプログラム冊子に掲載の東京工大の山崎太郎教授による「『ジークフリート』と豊穣の森~ワーグナーにとってのスイス」という論考を読んだら,次のような記述がありました
「『広い世の中』のドイツ語原文はWelt(世界),『森』はWaltだから,Wという頭韻を重ねた二つの語によって『森』と『世界』が対置されていることになる」
つまり,『ジークフリート』は深い森で育った世間知らずの少年が広い世界へ飛び出して様々な経験をする物語であることを考えれば,ジークフリートは「森」から「世間」に出ていくことになるわけです 個人的には「世間」よりも「新しい世界」と訳した方が良かったのではないか,と思います
さて,爺さんの行方ですが,第1幕後の休憩時間,入口近くのロビーでのことです.爺さんがアテンダントの女性に「何で動かないんだよ」と大声で食って掛かっています 「動かない」ということは,「エレベーターのことかな」と勝手に思いましたが,実情は分かりません いったい何を怒っていたのでしょうか
今度は第2幕終了後の休憩時間,入口近くのモニター画面裏の公衆電話でのことです.爺さんがテレフォン・カードでどこぞに電話をかけています ところがひと言もしゃべりません.相手が出なかったのか,時報でも聞いたのか,明日の天気でも聞いたのか,1分も経たず受話器を置きました これが2度ありました 爺さんも暇なら,それを見ている私も暇です 本当に不思議な人です 図らずも爺さんはケータイもスマホも持っていないことが判明しました
公演修了は下のスケジュール表のとおり9時40分でした 出演者もお疲れでしょうが,拘束5時間40分は聴いている方もお疲れでした
最後に,自分の経験から,ワーグナーの歌劇・楽劇を生演奏で聴く時に気を付けることをお伝えしておきます 2003年の東京リングの「ジークフリート」の時だったと思いますが,仕事の関係で開演時間に間に合わず10分程遅刻をしました すると入口で「第1幕が終了するまで会場内には入れません.こちらでお待ちください」と言われ,ロビーのモニター画面を観ながら1時間以上待たされました このことから得た教訓は,「ワーグナーのオペラは止まることなく延々と続く無限旋律 生で聴く時は1分でも遅刻してはいけない」ということです
ワーグナーの音楽は,おっしゃるとおり,「常に人間の歌声が中心に置かれながら,完璧なまでのオーケストレーション」の魅力に満ちていますね.最初のうちは,いつ終わるのかとウンザリ気味に聴いていた無現旋律でしたが,一度彼の音楽の魅力に取りつかれると二度と離れることが出来ません.「ワーグナーには毒がある」と言われることがありますが,その通りだと思います.
いつもボリュームたっぷりの貴殿のブログ,拝見いたします
私もワーグナーの『ジークフリート』の舞台を鑑賞してきましたので、鑑賞レポートを読ませていただき、『ジークフリート』の舞台を再体験することができました。ワーグナーの楽劇は、活気に満ち血が通った力強い音楽、説得力を持って語りかけてくる音楽のテンポの躍動的変化が生み出す推進力、常に人間の歌声が中心に置かれながら、完璧なまでのオーケストレーションは、ワーグナーの世界に魅了されました。巧みにライトモチーフが縦横に張り巡らされていているので、対話の裏に真意を紐解きながら内容を楽しむことができます。歌は、自らの気持ちを音楽に込めたアリアや対話形式ですが、主役級の歌手の歌・声・言い回しの魅力に浸れ、歌手の歌や演技の技量を堪能できるよろこびがあります。ジークフリート役のステファン・グールドは、高い音も力強く伸び、高い音が鮮やかに表現した歌声は感動的でした。私はキース・ウォーナー演出、準・メルクル指揮「トーキョー・リング」も鑑賞していましたので、今回の飯守泰次郎さんの『ジークフリート』も冷静に客観的に比較しながら楽しむことができました。
その観点も含めて、『ジークフリート』の魅力と特徴、楽劇の舞台に及ぼす演出の力を考察しながら、今回の飯守泰次郎さんの魅力を整理してみました。一度眼を通していただき、何かのご参考になれば幸いです。ご感想、ご意見などコメントいただけると感謝いたします。