人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

「東京春祭 合唱の芸術シリーズvol.5 ロッシーニ『スターバト・マーテル』」を聴く~スカップッチ指揮東京都交響楽団 / アカデミー賞受賞作「アマデウス」のミロス・フォアマン監督逝く

2018年04月16日 07時46分49秒 | 日記

16日(月)。新聞各紙によると、モーツアルトを巡る相克を描き、アカデミー作品賞を獲得した「アマデウス」(1984年)などで、アカデミー監督賞を2度受賞した米映画監督ミロス・フォアマン氏が14日、86年の生涯を閉じました

「アマデウス」は言うまでもなくウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの名前の一部を借りた標題ですが、ピーター・シェーファーの原作・脚本をミロス・フォアマンが監督した作品(158分)です 物語は モーツアルトと同時代に活躍した作曲家アントニオ・サリエリが「モーツアルトを殺したのは私だ」と告白するところから始まりますが、天才モーツアルトと、彼が天才であることを理解することしかできない凡人サリエリの相克を描いています

この作品ではモーツアルトの作品が数多く流れますが、曲の使用法で忘れられないシーンが2つあります 一つは、映画の冒頭で サリエリが「モーツアルトを殺した」と告白する場面で流れる「交響曲第25番ト短調」の第1楽章冒頭の衝撃的なシンコペーションです 

もう一つは、広間でモーツアルトとコンスタンツェがいちゃついているところを陰で見ていたサリエリの耳に、隣室で演奏する「グラン・パルティータ」の第3楽章「アダージョ」が聴こえてくるシーンです この音楽を聴いて サリエリは「目の前でいちゃついている破廉恥でふざけた小僧が、こんなに美しい音楽を書いたのか モーツアルトの才能は神の寵愛を受けている唯一最高のものだ それに引き換え、自分は神に人生を捧げたのに作曲家としては凡庸な人間に過ぎない」と悟ります モーツアルトの天才性を表すのにこれほど相応しい音楽もないでしょう 実に巧みな選曲だと思います

慎んでミロス・フォアマンさんのご冥福をお祈りいたします

ということで、わが家に来てから今日で1293日目を迎え、トランプ米政権が13日、シリアでアサド政権が化学兵器を使用したと断定し 報復として米軍が英仏との共同作戦で ダマスカスなどの化学兵器関連施設3拠点をミサイル攻撃し 破壊したと発表した というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

       イラクの時みたいに実はウソでしたなんてないよね? それは ダマすカスの論理だ

     

          

 

昨日、上野の東京文化会館大ホールで、「東京春祭 合唱の芸術シリーズvol.5、ロッシーニ『スターバト・マーテル』」公演を聴きました プログラムは①モーツアルト「交響曲第25番ト短調K.183」、②ロッシーニ「スターバト・マーテル」です ②のソプラノ独唱=エヴァ・メイ、メゾ・ソプラノ=マリアンナ・ピッツォラート、テノール=マルコ・チャポー二、バス=イルダール・アブドラザコフ、管弦楽=東京都交響楽団、合唱=東京オペラシンガーズ、指揮=スペランツァ・スカップッチです

 

     

 

自席は1階4列24番、センターブロック右通路側です。この公演が今年の東京春祭最後のコンサートとあってか、会場は満席近い状況です

オケのメンバーが配置に着きます。弦の並びはいつもの都響と同じで、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという編成です コンマスは山本知重氏、第2ヴァイオリン首席にはエンカナ(遠藤香奈子)さんがスタンバイしています

拍手の中、髪を後ろで束ねたスペランツァ・スカップッチが登場、指揮台に上がります スカップッチはイタリア生まれの女性指揮者で、ジュリアード音楽院、サンタ・チェチーリア音楽院を卒業、「椿姫」「チェネレントラ」でウィーン国立歌劇場にデビューしました。東京春祭には昨年に次いで2回目の登場です

1曲目はモーツアルト(1756-1791)の「交響曲第25番ト短調K.183」です この曲はモーツアルトが17歳の時 1773年にザルツブルクで作曲されました モーツアルトはケッヘル番号が付いている作品だけでも41の交響曲を書いていますが、短調の作品はこの「第25番ト短調K.183」と「第40番ト短調K.550」の2曲だけです ほの暗い情熱を秘めたこの2曲だけでもモーツアルトの名前は後世に残ったことでしょう この曲は第1楽章「アレグロ・コン・ブリオ」、第2楽章「アンダンテ」、第3楽章「メヌエット」、第4楽章「アレグロ」の4楽章から成ります

スカップッチの指揮で第1楽章が開始されますが、冒頭のシンコペーションを聴いて、映画「アマデウス」の冒頭場面を思い浮かべました 全曲を通して、オーボエ首席の広田智之の演奏が冴えわたっていました オーケストラの要はオーボエとホルンと言われるようですが、都響には広田あり、といったところでしょうか

 

     

 

休憩後のプログラム後半は没後150年を迎えたロッシーニの「スターバト・マーテル 聖母マリアの7つの悲しみ」です 私がこの曲を聴くのは今年1月26日にトリフォニーホールで ジェームズ・ジャッド+新日本フィルの演奏で聴いて以来、今回が2度目です

ジョアッキーノ・ロッシーニ(1792-1868)は、名作「セヴィリアの理髪師」をはじめとする数々のオペラや管弦楽曲を作曲し、1829年(37歳の時)に最後のオペラとなる「ギョーム・テル(ウィリアム・テル)」を書き終えると、あとは数少ない教会音楽や歌曲、器楽曲などを作曲するにとどまり、後世に「美食家」として名を残すような羨ましい余生を送りました この「スターバト・マーテル」はそんな時期に書かれました。「スターバト・マーテル」というのは、イエス・キリストの母であるマリアに心を寄せ、愛する子(=キリスト)が磔になった際の悲しみを伝えた聖歌で、13世紀に生まれたと伝えられています

この曲は第1曲「導入唱 悲しみの御母は立ち尽くし」、第2曲「アリア 嘆きのその御魂は」、第3曲「二重唱 涙を流さぬ者などいるだろうか」、第4曲「アリア 人々の罪のため」、第5曲「合唱とレチタティーボ ああ御母よ、愛の泉よ」、第6曲「四重唱 聖母よ、願わくは」、第7曲「カヴァティーナ キリストの死を負わせてください」、第8曲「アリアと合唱 業火と火炎の中で」、第9曲「四重唱 身体が朽ちるときも」、第10曲「終曲 アーメン」から成ります

東京オペラシンガーズの男女混声合唱約90名がステージ奥にスタンバイし、オケのメンバーが再入場します。そして指揮者とソリスト4人が入場し、ソリストはオケの手前にスタンバイします スカップッチの指揮で第1曲「導入唱 悲しみの御母は立ち尽くし」が低弦の重々しい演奏から開始されます スカップッチは”間”をたっぷりと取りながら演奏を進めます。そして4人のソリストが代わる代わる歌いますが、ここではエヴァ・メイの声が良く通ります 彼女はフィレンツェのルイージ・ケルビ―二音楽院を卒業し、ミラノ・スカラ座やザルツブルク音楽祭などで活躍しているソプラノですが、第8曲「アリアと合唱」でもドラマティックな歌唱で聴衆を惹きつけました

第2曲「アリア」はイタリア出身のテノール、マルコ・チャポー二がソロを歌いますが、まるでオペラのアリアを聴いているような気分になります この曲では、テノールの最高音を披露しましたが、1月の新日本フィルで聴いた時の宮里直樹の迫力満点のテノールを思い出しました。どっちもすごいと思いました

第3曲はソプラノとメゾ・ソプラノの二重唱ですが、エヴァ・メイとマリアンナ・ピッツォラートのデュエットが、まるでオペラのアンサンブルのように美しく響きました マリアンナ・ピッツォラートは、第7曲のカヴァティーナでも、恵まれた身体を生かして深みのあるメゾ・ソプラノを聴かせてくれました

第4曲「アリア」はMETライブビューイングでもお馴染みのバス=イルダール・アブドラザコフの独唱でしたが、深みのある歌声で説得力がありました 彼は旧ソ連のバシコルトスタン共和国生まれで、2000年のマリア・カラス国際声楽コンクールで優勝し、翌年ミラノ・スカラ座にデビューを果たしています

第9曲「四重唱」の冒頭はオケの伴奏なしのアカペラで歌われましたが、この無伴奏のアンサンブルが見事でした

第5曲「合唱とレチタティーボ」と第10曲「アーメン」における東京オペラシンガーズの迫力ある合唱は特筆に値します

スカップッチ+東京都交響楽団は、先を急ぐことなく、十分に間を取りつつ歌手と合唱団に寄り添いながら じっくりと曲を進め、ロッシーニの宗教曲をドラマティックに歌い上げました

会場いっぱいの拍手とブラボーにカーテンコールが繰り返されましたが、この日の演奏は「東京・春・音楽祭2018」を締めくくるのに相応しい心に残るコンサートでした


     

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