goo blog サービス終了のお知らせ 

東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2023年09月19日 | Weblog
 藤沢周平さんの『蟬(せみ)しぐれ』に秋の嵐によって城下を流れる「五間(ごけん)川」が増水し、このままでは大きな被害が出るという緊迫の場面がある▼すんでのところで藩内の土木工事を請け合う「普請組」が上流の土手を開き、水を逃がすことで市中への流入を食い止める。荒れ狂う嵐の中でどこの土手を開くかを議論し、城下の暮らしを守ろうとする人々がまことに頼もしく、読んでいてわくわくしてくる▼「海坂(うなさか)藩」の危機は回避できたが、別の痛ましい洪水の話である。北アフリカのリビア。集中豪雨による洪水で東部デルナなどで大きな被害が出た。死者は1万を超える可能性もあると伝わる。泥にまみれた街を見るのがつらい。救援活動も難航している▼国土の9割が砂漠地帯で、「ワジ」と呼ばれる雨期にしか水が流れない「枯れ川」の目立つリビアである。水害でこれほど多くの犠牲者が出たことに驚いたが、被害を大きくしたのは政情不安と関係があるとの見方が出てきた▼「アラブの春」以降の内戦は2020年に停戦となったものの、二つの政府が正統性を主張し、対立が続く。大雨で二つのダムが決壊し、被害を広げたが、いずれのダムも20年近く十分に管理されていなかったと伝わる▼いがみ合いの中、ダムや市民の安全を守りたいという心まで失っていたとしたら、犠牲者を増やした「犯人」は大雨ばかりではない。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月16日 | Weblog

慣れない幸せに恵まれると落ち着かなくなる人がいる。素直に喜ばず「この先、何か不幸が待っているかも」と考える。プロ野球阪神の古いファンにみられる気質で、勝ちが続くと、いずれ調子は落ちると自分に言い聞かせるらしい。虎党の医師石蔵文信さんが著書で「阪神性不安」と呼んだ▼最下位続きの暗黒期もあった球団。一つ引き分ければ優勝という残り2試合、中日、巨人に連敗し巨人に9連覇を許した1973年やら、新庄剛志選手らが活躍するもヤクルトに優勝をさらわれた92年やら、幾度も期待を裏切られた歴史が独特のファン心理を育てたという▼虎党の安堵(あんど)はいかばかりか。18年ぶりのリーグ優勝が決まった▼思えば岡田彰布監督も阪神性不安を知る人。阪神の監督だった15年前、最大13ゲーム差をひっくり返されて優勝を逃し、辞任した。今季、優勝を「アレ」と言い換え意識せぬよう努めたのも軽い気持ちからではなかろう▼岡田語録といえば、今季初の4連敗を喫し2位に肉薄された6月24日、「明日は絶対に負けられない」と水を向けてきた記者団を「勝負に絶対とか使うな」とたしなめている。真意は「長いシーズン、絶対に負けたらアカン試合なんてそうそうあるかいな」だろう。実際に連敗は5まで伸びたが、大事に至らなかった▼在阪メディアを含め心配性な周囲の空気をよく御したものである


今日の筆洗

2023年09月15日 | Weblog
 トラベルライターの国分隼人さんは21世紀になってから北朝鮮を鉄道で旅した。2007年発行の著書『将軍様の鉄道 北朝鮮鉄道事情』によると、列車の速度がとにかく遅い▼中朝国境から首都平壌までの225キロに5時間かかる。戦前の蒸気機関車も4時間15分で走った。鉄道は停滞どころか退化していたという。遅いのは保線が悪いためで、線路の砂利が間引かれ、腐敗した木の枕木も多く、事故も頻発する▼北朝鮮の金正恩総書記が特別列車で平壌をたち、国境を越えてロシアに入り、宇宙基地でプーチン大統領に会った。ウクライナ侵攻で友人が少なくなった先方は歓迎し、宇宙開発支援を約束したと伝わる▼特別列車は最新通信設備を誇り、安全確保のため迫撃砲も備えると聞く。列車での外遊は祖父の代からの伝統だが、国内の保線の悪さは相変わらず。列車は平壌からロシア国境まで24時間以上かかったという。民の生活を支えるはずの鉄路の貧弱。宇宙開発の前にやることがあろうに▼国分さんの本によると、列車でロシアを訪れた先代の指導者金正日氏はこう語ったという。「飛行機に乗っていけば、何が見られるであろうか。何も見られない。政治家とだけ対話することになる。私は自分の目でロシアの長所・短所を確かめたい」▼今確かめるべきは自国の姿だろう。息子は車窓の眺めに目を凝らしただろうか。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月14日 | Weblog

愛媛、松山の名物、五色そうめんの歴史は古く、八代目長門屋市左衛門なる人物がそうめんに色をつける技術を考案したのは1722(享保7)年だそうだ▼市左衛門の娘が下駄(げた)に偶然、絡んだ5色の糸にひらめき、父親に製造を勧めたというからヒット商品はどこに転がっているか分からない▼9月になっても下がらぬ気温に五色そうめんをつい連想したが、「5人の女性閣僚」の方はヒットとなるか。この内閣改造である▼上川陽子外相に加藤鮎子こども政策担当相ら。5人の女性の入閣は最近の内閣では珍しい。女性票に強いとはいえない自民党としては次の総選挙をにらみ、女性の起用に積極的という「色」を加えたかったのだろう。もっとも女性登用が当たり前の時代。過去最多とはいえ5人の女性起用はそこまで自慢できる話かどうか▼閣僚全体を見れば、相も変わらず、党内派閥のバランスに縛られた人事である。党総裁選は来年秋。首相としては大胆な人事よりも党内の「治安」を優先したかったか。なるほど、5人の女性閣僚で「色」を出したかもしれぬが、党内の顔色ばかりをうかがった内閣改造は新味にも迫力にも欠ける▼五色そうめんとは違うが、そうめんに赤や緑の色のついたのが数本入っていて、子どものころはあれが食べたかったものだ。食べてみれば、味はあんまり変わらなかったことを思い出した。


今日の筆洗

2023年09月13日 | Weblog
「よいものはカタツムリのように進む」。インドの独立指導者ガンジーの言葉である。言葉の通り、独立に向けた歩みはカタツムリのようだった▼独立運動に本格的に身を投じたのが1915年。47年のインド独立までには実に32年もの歳月が必要だった。その道程は足早には進めず、時に後退とも思える局面もあったが、あきらめず、歩み続けることで「よいもの」にたどり着いた▼インドが議長国となった今回のG20サミット。その成果はカタツムリに誇れるか。ロシアのウクライナ侵攻をめぐる参加国の対立を受け、合意は困難と予想された首脳宣言をなんとか発出できた。が、問題はその中身である▼ロシアを名指しで非難することは避け、「全ての国は領土獲得のための威嚇や武力行使を控えなければならない」と至極当たり前な表現にとどめている▼カタツムリは後ろには進めないそうだが、国連決議を引用する形でロシアによる侵略を厳しく非難した昨年の宣言に比べれば、大きく後退した印象が残る▼議長を務めたインドのモディ首相はG20という枠組みをカタツムリとして見たのかもしれぬ。宣言が採択できなければG20は機能を失い、国際社会の安定に向けた歩みを止めかねない。ロシア非難の表現は後退となってもG20がこの道を歩み続けることを優先したかったか。ガンジーの言葉を今は、信じるしかない。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月12日 | Weblog

ある日のこと、カラスの脚にトゲが刺さった。カラスはトゲを抜くと、ある婦人に預けた。「大切にしてくれ。必ず取りに来るから」▼ところがカラスはやって来ない。もう忘れたのだろう。婦人はそう思い、ある晩、トゲをロウソクの芯に使った。ちょうど、その時にカラスがやって来る。トゲが燃えたと知ったカラスは怒り、「トゲがないならロウソクをよこせ」。カラスはロウソクをまんまと手に入れた▼モロッコに伝わる民話である。同国には広場に人を集め、民話を聞かせるハイカヤットという「物語り」(ストーリーテリング)の伝統があり、子どもも大人も耳を傾けるそうだ。楽しげで穏やかな広場を思い浮かべる▼世界遺産に指定されている、マラケシュ旧市街の広場も物語り名人が集まる場所だが、今はどうなっているのか。モロッコ中部でマグニチュード6・8の地震が発生し、大きな被害が出ている。死者は2千人を超えている▼レンガ造りの建物ががらがらと崩れ落ちる現地の映像を見るのがつらい。がれきの山が道路をふさぎ、救助活動もままならない。現地が心配である▼老朽化した建物が密集し、被害を大きくしたとの指摘が出ている。地震への油断はなかったか。地震の怖さ、普段からの備えが欠かせぬことを後世に物語っていく大切さを改めて思う。人々を困らせるカラスは忘れたころに飛来する。


今日の筆洗

2023年09月11日 | Weblog
作家、星新一さんの『白い服の男』は戦争を憎み、平和を一途(いちず)に願う近未来が舞台である。さぞ穏やかな社会だろう…。星さんの想像は逆である▼その世界では平和を願うあまり、戦争という概念そのものを消し去ろうとする。戦争の歴史は封印され、戦争と口にしただけで平和の敵として逮捕されてしまう。特殊警察の男が言う。「いかなる犠牲を払っても二度と平和を手放すまい」▼米国にとってロシアをウクライナから追いやり、かの地に再び平和の灯(あか)りをともすための協力なのだろう。それでも、間違ったやり方で平和を追求し、人々をかえって苦しめる結果となった星さんの小説が頭を離れない。米政府がウクライナに対し、劣化ウラン弾を供与すると表明した▼その高い破壊力に疑いはない。高熱で戦車の厚い装甲を貫通し内部で爆発。ウクライナの反転攻勢を助けるかもしれぬ▼その一方で、である。微粒子となったウランが人体に入り込めば、体内被ばくを起こす危険がある。細胞を傷つけ、治療法もない。住民の健康や環境への影響が極めて大きい「もろ刃の剣」であろう▼ロシアの侵攻を食い止めたい-。ウクライナの願いは理解する。だが、その「弾」は本当に平和をもたらすのかを疑う。ロシアとの戦争が終わったとて、その後に待つのは、体内被ばくという別の「敵」との闘いではないのか。それを恐れる。
 

 


今日の筆洗

2023年09月09日 | Weblog
1996年6月、競馬の日本ダービーはフサイチコンコルドが制した。馬主は名古屋の設計開発請負会社の創業者、関口房朗氏。入社式をディスコでやるなど名の知れたワンマン社長だったがダービー翌月の取締役会で突然、解任された▼社業として金のかさむ競走馬育成を始めようとしたというのが社の説明。好きな馬は自腹でやらねば公私混同との見解である▼関口氏は、趣味の馬を社業でやる気はなく、社の見解は自分を追放するためのうそと主張。「競馬が、関口房朗の実業家生命を脅かすための道具に使われてしまった」と後に自著で嘆いた▼自民党を離れた秋本真利衆院議員は「競馬が自分の政治家生命を脅かす道具に」と嘆いているのか。洋上風力発電の国会質問の見返りなどとして業者から総額6千万円超の賄賂をもらったとして逮捕されたが、潔白主張と聞く。競馬好き。馬主登録に要する金を業者から借り、この業者と馬主組合をつくり業者も費用を出したとされるが、これら業者側負担が賄賂とみられたよう▼本当に賄賂なのか予断は避ける。が、政治家が業者と一緒に馬に手を出すこと自体に、すきはなかったか▼馬を理由に社長の座を追われた関口氏は、馬主はやめぬと誓い「そのためにはもう一度、事業のほうでも成功してみせなければならない」と新会社をつくった。秋本氏はどう生きるつもりだろう。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月08日 | Weblog
ジャニーズの名付け親は事務所創業者の故ジャニー喜多川氏でなく、氏が最初に手掛けたアイドルグループの一員あおい輝彦さんだったらしい▼あおいさんらメンバーはジャニー氏が指導する少年野球チームに属していて、アイドルグループの名「ジャニーズ」も野球チームの名からとった。チームは当初「エラーズ」や「ヘターズ」を名乗ったが、あおいさんが「格好悪い」と訴え「ジャニーさんのチームだからジャニーズ」と提案した▼ジャニー氏は晩年、その思い出を本人に語って聞かせたという。あおいさんが以前、スポーツ紙で明かしていた▼ジャニー氏による所属タレントらへの性加害問題で、氏のめい藤島ジュリー景子社長が辞任し、事務所所属の俳優東山紀之さんが後任に就いた。事務所は性加害があったと認め補償に取り組むが、ジャニーズ事務所の名は変えない▼東山さんは会見で「議論はした」と明かしたが、個々のタレントの努力など否定できぬ過去もあるということらしい。被害者数百人ともいわれる問題のおぞましさと、タレントの発掘、育成の実権をその人一人が握った現実。「ジャニーさんのチーム」からの脱却は平たんでなかろう▼東山さんは「エンターテインメントは人を幸せにするためにある」と言っていた。傷つけた人をいやしながら、幸せな人をいかに増やすか。チームの真価が問われる。
 
 

 


今日の筆洗

2023年09月07日 | Weblog

『キャリー』などのスティーブン・キングさんは長いキャリアを誇る世界的なベストセラー作家だが、デビュー前はかなり苦労している▼若い頃から雑誌に作品を送っていたが、見向きもされない。不採用通知が届くたびに壁の釘(くぎ)に突き刺していたところ「釘はたまりにたまった通知の重みに耐えきれなくなった」(『書くことについて』)。それでもあきらめずに書き続けた▼京都アニメーション放火殺人事件の初公判である。見えてきた犯行の動機は応募した小説を京アニが落選させたことだという。お門違いも甚だしい。その道を選んだのなら落選の悔しさを書き続けることで晴らすしかなかろうに、人生がうまくいかぬことをすべて京アニのせいにしたのか。被害者の家族は到底、許せまい▼「こんなにたくさんの人が亡くなると思っておらず、やりすぎたと思っています」。被告の言葉が胸にざらざらと引っかかる。一人として傷つけてはならぬのに悔やんでいるのは「数」なのか▼再び、キングさんの話。新人作家の本に「妻へ」などの献辞を見るとうれしくなるそうだ。「わかってくれているひとがいるのだな」。自身も妻に励まされてきた▼それとは違う深い孤独を被告の半生に感じる。無論、殺人の理由にはならぬ。同情さえためらうが、もし「わかってくれているひと」が一人でもいたら。その想像が止められぬ。