1990年代の後半の話だったと記憶する。来日した米国の要人が日本のある閣僚にバスケットボールを進呈した。ただのボールではない。NBAの偉大な選手、「神様」マイケル・ジョーダンの直筆サインボールである▼この大臣、その価値がお分かりでなかったのだろう。記者団を前にボールをケースから取り出し、床にぽんぽんとつきだした▼「やめてください」。記者団が押しとどめたのももっともな話で、今なら、大谷選手のサインボールでキャッチボールするようなものか▼ジョーダンどころではなく、この試合の使用球は日本バスケにとって神聖な宝となるだろう。バスケットボールの男子ワールドカップ（W杯）。日本はカボベルデに勝利し、来年のパリ五輪出場権を獲得した。第3クオーターまで大きくリードしながら猛追を受ける展開にハラハラし、祈りながら、終了のブザーを待った人も多いだろう▼開催国枠ではなく、五輪出場を自力で決めるのは実に48年ぶり。W杯で優勝したわけではなかろうというなかれ。その扉がいかに重かったか。熱と技術で扉を押し開けた選手、コーチの奮闘をたたえる。ナイスゲーム▼侍ジャパン、サムライブルー。スポーツ界に日本代表の愛称は数あれどバスケットの「アカツキジャパン」の名がいい。希望、そして挑戦者のにおいがする。日が高く昇るのはこれからである。