地武太治部右衛門。「ぢぶたぢぶえもん」と読むのは落語ファンならご存じだろう。「粗忽(そこつ)の使者」に出てくる、物忘れのひどい家臣の名前である▼ある日、殿様から使者の役目を申し付けられるが、地武太氏、先方に伝えるべき口上をすっかり忘れてしまう。お尻を強くつねると思い出すというので屋敷にいた気のいい大工がくぎ抜きでお尻を…▼この大臣、口上を忘れたわけではないが、どういうわけか覚え損なったとみえる。野村農相である。東京電力福島第1原子力発電所から海洋放出されている処理水を言い間違えて「汚染水」とやってしまい、ひんしゅくを買っている▼海洋放出を批判する中国は連日「核汚染水」と呼び、日本を攻撃しているが、日本政府としては国際機関のお墨付きも得た安全な処理水だったはず。撤回し陳謝したとはいえ、取り返しのつかない粗忽である▼どなたにも間違いはある。戦時中、「敵性語」を禁じたような話はごめんなのだが、日本の閣僚、ましてや漁業への風評被害対策に力を入れるべき農相自らが「汚染水」とはしまらない。地元漁業者はさぞ腹を立て、くぎ抜きを探したくなるだろう▼中国は「(農相は)事実を発言したまで」とさっそく皮肉っている。首相から大目玉を食った野村さん。農相を続投し、信頼回復に努めるそうだが、今月の内閣改造では、「処理」されかねない。