東京新聞寄居専売所

読んで納得!価格で満足!
家計の負担を減らしましょう!
1ヶ月月極2950円です!
アルバイト大募集中です!

今日の筆洗

2021年07月24日 | Weblog
 七月二十三日。東京は雲が広がったものの、ひとまずは晴れた。東京五輪が開幕の日を迎えた。一九六四年の時は前日からの雨がやんで、澄みきった秋空が広がった。今回は澄みきってはいない。そして蒸し暑い▼昼間、航空自衛隊のブルーインパルスが東京上空に五輪マークを描いた。五十七年前に比べてやや途切れがちに見えたのは気のせいだろうか。かつての映像を見れば青空にあんなに鮮やかな輪を描いていたのに▼誰もが待ち望んだ五輪とは言えぬ。開幕までの混乱や迷走を数え上げればきりがない。新型コロナの感染拡大を受け、五輪中止を求める声はなお残る▼六四年の東京五輪の開催前に家の前に置く大きなバケツが売れたと聞いたことがある。海外からのお客さんに清潔な東京を見てもらいたい。だからバケツを買った▼五輪を成功させたい。そういう国民の熱は今回、感じられぬ。時代だろう。多くの人には「わたしたちの五輪」ではなく、「どこかの誰かがやっている五輪」と映っている。「わたしたち」と「誰か」の断層が、五輪という「輪」を一つにできなかった▼その輪をひょっとして一つにしてくれるのが競技者たちなのかもしれない。コロナという困難に耐え、彼らはここにいる。その力と技は逆境を乗り越えた物語として誰かの励ましや希望になるはずだと祈るしかない。東京はひとまずは晴れた。

 


今日の筆洗

2021年07月22日 | Weblog
 宇宙から地球を見れば、どんな気分になるか。こう語った人がいる。窓から地球を見ると誰もが最初は自分の故郷の町を探そうとするそうだ。しばらくすると自分の生まれた国全体を見るようになる▼二、三日もすると今度は自分の国がある大陸全体を眺めるようになる。一週間もすると地球全体を見るようになるそうだ。地球が自分の故郷なのだと思うようになる。一九八五年、スペースシャトルに搭乗したサウジアラビアの王子の感想である。日本人宇宙飛行士の若田光一さんが著書で紹介していた▼若田さんも宇宙から地球を眺めて、やはり同じ気分になったそうだ。「地球に存在するものすべてに温かい気持ちがわき上がってくる」▼IT大手アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスさんはどうだっただろう。おととい自らが搭乗した宇宙船による宇宙旅行に成功した。約三十億円もの旅費を払ったお客さんも搭乗しており、これが顧客を乗せた初の宇宙旅行ということになるそうだ▼十一日、宇宙旅行にやはり成功した英実業家のリチャード・ブランソンさんといい、富豪たちが宇宙を目指すのは宇宙ビジネスへの計算と野心なのだろう▼十分間の旅行に三十億ねえ。無縁な話にやっかみも交じるが、その体験で地球全体を故郷と思い、そこに住むすべての人に愛をそそぐようになるのなら富裕層の宇宙旅行も悪くないかもしれぬ。

 


今日の筆洗

2021年07月20日 | Weblog
 ニューディール政策で名高いルーズベルト米大統領には就任前、軽量政治家の印象があったそうだ。米メディアによると、俳優出身のレーガン氏も「カンニングペーパーなしにはしゃべれない人物」とみられた。新自由主義的なレーガノミクスを進める大統領となる。「前評判と違う」と人々を驚かせた大統領たちである▼現在のバイデン氏も大統領選では「トランプ氏の対抗馬」の印象が強かった人であろう。七十代後半の年齢もあり、過渡期の人ともみられていたはずだ。「ねぼけたやつ」を意味した、トランプ氏による「スリーピー・ジョー」の揶揄(やゆ)は、痛いところを突いたようにも感じたものだ▼それがどうだろう。異例の規模の歳出拡大を盛り込む予算教書を発表した。レーガン氏にさかのぼる「小さな政府」から、「大きな政府」へ米国の大転換を意味している。前評判の印象とは少々異なる大きな手を打っている▼「トリクルダウンが機能したことはない」とも断言する。富める者が豊かになれば、貧しい者にも恩恵があるとする理論の否定だ▼新自由主義的な政策の下で拡大し、固定化している格差を根本から是正しようとする決意の表れだろう▼大きな政府の弊害も指摘されている。議会の抵抗も考えられる中で、かじ取りは続く。わが国からも、米国が目指す方向の変化を、驚きつつみることになりそうである。

 


今日の筆洗

2021年07月17日 | Weblog

 マイクロチップを埋め込まれるとか、人口を減らすための策略であるとか、遺伝子が変えられるのだとか…。ワクチン接種をめぐるデマは、一部わが国にも入ってきているが、世界に出回って消えないようだ▼荒唐無稽の話の数々も、闇の勢力や権力、大資本家らによる陰謀さえ信じれば、現実感を伴ってみえるようになるものらしい▼収まらない陰謀論の一方で、世の中には本物の陰謀があると知った。パキスタンであったワクチン接種をめぐる米中央情報局(CIA)の工作である。欧米の名だたるメディアが報じているので、デマではないはずだ。約十年前、ビンラディンを追っていたCIAは血縁者を見つけ出すために、B型肝炎のワクチン接種をでっち上げた▼子どもたちへの接種の際に、DNAを採取しようとしたという。たくらみはのちに明らかになる。ワクチンに不信が高まり、医療関係者らが、過激派に多数殺害される事態にもなった。接種をためらう親が増え、子どもらの免疫が衰えたおそれがある。感染症の増加などへの悪影響が指摘されている。陰謀が招いた悲劇的状況である▼パキスタンは新型コロナウイルスのワクチン接種で、当初後れを取った。ワクチンへの不信感は、今もなお残っているという▼CIAはこの手のスパイ活動をもうしないそうだ。陰謀論の栄養となってしまった本物の陰謀であろう。


今日の筆洗

2021年07月15日 | Weblog
 ニューディール政策で名高いルーズベルト米大統領には就任前、軽量政治家の印象があったそうだ。米メディアによると、俳優出身のレーガン氏も「カンニングペーパーなしにはしゃべれない人物」とみられた。新自由主義的なレーガノミクスを進める大統領となる。「前評判と違う」と人々を驚かせた大統領たちである▼現在のバイデン氏も大統領選では「トランプ氏の対抗馬」の印象が強かった人であろう。七十代後半の年齢もあり、過渡期の人ともみられていたはずだ。「ねぼけたやつ」を意味した、トランプ氏による「スリーピー・ジョー」の揶揄(やゆ)は、痛いところを突いたようにも感じたものだ▼それがどうだろう。異例の規模の歳出拡大を盛り込む予算教書を発表した。レーガン氏にさかのぼる「小さな政府」から、「大きな政府」へ米国の大転換を意味している。前評判の印象とは少々異なる大きな手を打っている▼「トリクルダウンが機能したことはない」とも断言する。富める者が豊かになれば、貧しい者にも恩恵があるとする理論の否定だ▼新自由主義的な政策の下で拡大し、固定化している格差を根本から是正しようとする決意の表れだろう▼大きな政府の弊害も指摘されている。議会の抵抗も考えられる中で、かじ取りは続く。わが国からも、米国が目指す方向の変化を、驚きつつみることになりそうである。

 


今日の筆洗

2021年07月14日 | Weblog

 一九三五年、結成間もない大日本東京野球倶楽部(現在の読売ジャイアンツ)は米国に遠征し、地元チームを相手に百十試合を行っている▼今年の大リーグオールスター戦の開催地コロラド州デンバーでも試合をしている。成績は大学生チームなどと二戦して二勝。いずれも伝説の名投手、沢村栄治が勝利投手になっている▼昔からデンバーは日本人選手には縁起のいい場所かもしれない。高地にあり、打球が飛びやすい当地、クアーズ・フィールドで野茂英雄投手がノーヒットノーランを達成している。松坂大輔投手はレッドソックス時代、ここで日本人として初のワールドシリーズ勝利投手となった。野手ではイチロー選手が三千安打をこの球場で記録している▼本塁打競争は惜しくも一回戦で敗退したが、本日の二刀流での出番ではおおいに活躍してくれることだろう。エンゼルスの大谷翔平選手である▼三五年の遠征では日本人選手は米国人選手の打球の速さに目を丸くしたそうだが、今は、日本のこの若者の打球と速球が米国人選手やファンの目を丸くさせている。痛快でもある▼差別に苦しんでいた当時の日系人たちは沢村投手の快投に涙を流して喜んだと伝わる。コロナ禍の暗い世相の中で、今の日本人も大谷選手の活躍に光を探しているようでもある。こんなあいさつが普通になった。「今日の大谷はどうだった?」


今日の筆洗

2021年07月13日 | Weblog
 終戦直後のお正月の料理について俳優の森繁久弥さんが書いていた。ミカン箱の膳の上には酒が一本、モチ、厚焼き卵、ミカンの入ったカンテン。そしてエビのフライ。食糧難の時代にも、夫人が用意した▼今のエビフライとは違う。材料は「裏の川で取ってきたザリガニ」。その時代は貴重なタンパク源としてアメリカザリガニをよく食べていたそうだ▼そのニュースを聞けば真っ赤なハサミを振り上げるか。環境省の専門家会議は生態系への影響が深刻としてアメリカザリガニを外来生物法に基づく特定外来生物に指定する方向で検討しているそうだ。正式に決まれば野外で繁殖させないよう規制も加えられる▼食用ガエルのエサとして米国のニューオーリンズからやって来たのは一九二七年。最初に放流されたのは二十匹程度だったそうだが、全国に急速に広がった。人が運び、放流した結果である▼在来種を脅かし、イネを傷つけるなど農作物にも被害を与えている。やっかいもの扱いされる理由はあるが、人に連れてこられ、物のない時代には食料となり、長く子どもの遊び相手にもなってきた日本のアメリカザリガニの歴史を思えば、少々気の毒なところもある▼<ザリガニの音のバケツの通りけり>山尾玉藻。外来種といえどこれだけ長く日本にいるとその赤いハサミも故郷の懐かしい風景の一部のように思えてならぬ。

 


今日の筆洗

2021年07月10日 | Weblog
 この夏も夜空は少しさびしいままのようだ。昨年に続いて、各地の花火大会の中止の知らせが相次いでいる。自由に旅ができるのもまだ先だろう。花火を愛し、旅に生きたその人なら無念な夏かとふと思う。画家山下清である▼最高傑作ともいわれる貼り絵に「長岡の花火」がある。民芸運動の柳宗悦(やなぎむねよし)と英国人陶芸家バーナード・リーチが、ある部屋でこの作品を見た。二人は<他の話題を忘れたように…ながめつくした>そうだ。誰の作品との比較か不明だが、<五十年後に残るのは花火の方じゃないかな>とリーチが話した(池田満寿夫、式場俊三著『裸の放浪画家・山下清の世界』)▼画家が亡くなって今年は五十年。十二日が忌日だ。本物の花火が縁遠い五十年後の夏、本の中にその作品を見る。光跡、星、人…と、花火の一夜を凝縮したような技である▼芸術の素人は両国、富田林などよその花火の絵や花火以外の作品などとともに感動させてもらった。生前から山下清を低く見る声があったそうだが、どうなのだろう▼「みんなが爆弾なんかつくらないできれいな花火ばかりつくっていたらきっと戦争なんて起きなかったんだな」。残したという言葉は、今も味わい深い▼平和への思いを込め、故大林宣彦さんが撮った映画『この空の花 長岡花火物語』(二〇一二年)にも言葉は登場している。存在感は今なおだろう。

 


今日の筆洗

2021年07月09日 | Weblog
 太平洋戦争中、海戦で沈められた海軍の空母が次の作戦の地図上の演習に登場したことがあった。戦意を落とさないため沈没を伏せたらしい。悪名高い大本営発表では、沈んでいない米艦船をいくつも撃沈したことになっている。見せたいものだけ見せていても、得られるのは偽りの手応えである。いずれ厳しい現実に向き合わなければならない。いいことはない▼政府にとっては国民に見せていたいものだったのだろう。東京五輪を「人類がウイルスに打ち勝った証し」にという言葉。厳しい現実を前に、ついにむなしく響く時を迎えたようだ。政府は東京都に十二日から、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言を再発令すると決めた▼八月二十二日までという。五輪はまるまるこの間に開催されることになる。打ち勝った証しを示すにはほど遠い、緊急事態の中での五輪になったということだ▼感染力の強い変異株の脅威が高まっていて、感染者の数はまた増加に転じている。今回の宣言自体は、妥当に思える▼専門家の心配をよそに、いったん宣言を解除していた政府の判断などはどうだったのだろう。五輪を前にして、人々に偽りの手応えを感じさせようとしていたのではなかったかと疑ってしまう▼現実の前にむなしく響く言葉を忘れて、なんとしても守り勝たなければならない。それが目指すところになりそうである。