日本の優勝で幕を閉じた野球の国際対抗戦「プレミア12」で最も印象に残った選手は岸孝之投手かもしれぬ。不思議に思うか。岸投手、十六日の韓国戦ではめった打ちにあっている。4回を投げて被安打7、失点6。無残な数字である▼日本球界屈指の好投手がこうも打ち込まれるかと思っていたが、あえて打たれることで韓国打線から情報を引き出す戦術だったらしい。東京中日スポーツに出ていた▼韓国とは翌日の決勝で当たることが分かっていた。決勝に向けて、韓国の打者がどんなボールに反応するかを見極めようと相手の得意とする球種やコースにも投げていたらしい。会沢翼捕手に「自分のことは気にしないで配球してくれ」と頼んでいたとは驚く▼自分は打たれても情報をつかんでチーム内で共有する。その大切さを侍たちはよく理解していたが、どうも分かっていないのは日韓両政府の方か。韓国が破棄を通告した日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)。関係悪化の果て二十三日午前零時をもって失効する可能性が高くなっている▼日韓防衛相会談でも進展はなかった。不安定な北東アジア情勢を思えば、情報共有は両国民にとっての利益だが、互いのメンツが歩み寄りの邪魔をする▼日韓は延長戦を。野球ではなく政府間の交渉である。このまま時間切れでは、観客席は失望のため息につつまれるだろう
Самохин Вячеслав - Телешова Полина, Финал, Ча-Ча-Ча
放蕩(ほうとう)の末、親に勘当された若旦那が慣れないカボチャ売りの身となる。落語の「唐茄子(とうなす)屋政談」。力仕事など無縁だった若旦那は荷の重さに負け、往来で転んでしまう▼親切な人がいるもので通りがかった男が事情を聴いて若旦那に代わり、カボチャを売ってくれる。残ったカボチャを売り歩く若旦那は途中で貧しい母子と出会う。子どもは何日も食事をしていないという。若旦那は自分の弁当を差し出す▼弁当をあげる若旦那の心が分かる。困っていた自分を助けてくれた人がいる。その親切のありがたさ。今度は自分も。親切や優しさとは言葉は悪いのだが、伝染していくものかもしれない。人は優しさによって優しくなれる▼「人からこんなに優しくしてもらったことはなかった」。自分への治療に携わった病院関係者にそう語ったと一部の報道にあった。「京都アニメーション」が放火され三十六人が亡くなった事件で逮捕状が出ている青葉真司容疑者である▼本心かどうかは分からない。亡くなった人や家族を思えば同情もためらうが、優しさや親切に恵まれなかった日々の中で荒(すさ)み、人の痛みさえ感じられなくなった小さな心を想像してしまう▼病院で優しさを受け取ったのなら、今度は優しさを返す番である。今できる優しさといえば、何があったかを正直に語り、失われた命に心からわびることである。それしかない。
古今亭志ん生(五代目) 唐茄子屋政談(上・下)*
Dutch Open Championships | Assen 2019 | Amateur Latin - GRAND FINAL
北風が冷たくなってきた。最近の秋は短くて、冬が突然にやってくるようである。暑いか寒いか、どちらかの一年で、季節の移ろい方が荒っぽい▼<寝られずやかたへ冷えゆく北下し>去来。北おろしとは山から吹き下ろしてくる北寄りの乾いた風のことで漢字一文字なら「颪」。赤城おろし、伊吹おろしなど各地の山の名で呼ばれる▼「解散風」「べたなぎ政局」「逆風」など風にまつわる言葉をしばしば耳にする政界にあって、「おろし」と聞けば時の首相を交代させる与党内の動きを連想するのだが、最近の自民党では「おろし」はあまり吹かぬものらしい▼安倍首相が起用した閣僚二人は不祥事を理由に相次ぎ辞任。首相主催の「桜を見る会」は地元後援会を喜ばせる公私混同のうたげ。不始末続きにかつての自民党なら多少の自浄作用や跡目をうかがう健全な権力欲によって「おろし」が吹いてもおかしくない状況に思えるのだが、それがいっこうに吹かぬ▼この件で、首相を厳しく批判する自民党の声も聞かぬ。首相(党総裁)の力が強くなりすぎているせいなのか。それともお行儀が良すぎるのか▼世間から首相官邸に向かって吹く北風は強まる一方だが、党内からの風は弱く、どちらかといえば、生ぬるい。ゆるみ、たるんだ政権を冷たい風がぴりっと引き締め、言動を注意深くさせるということもあるだろうに。
Kirill Belorukov - Polina Teleshova | Dutch Open 2019 | Assen | Cha Cha
上は洪水で、下は火事、これなあに。お決まりのなぞなぞも近ごろは、「お風呂」という答えが、子どもから出てこないと聞いたことがある。そんな風呂に入ったのも風呂自体を見たことも、なるほど遠い昔のことである▼気候変動が進む現代ならば、答えは「地球」だろうか。北半球の街に水があふれ、南半球の森では火が燃え盛っている。海外から伝えられてくる惨状とニュースに、そんな気のめいる答えを思い浮かべた▼イタリアのベネチアが高潮で水没している。ここ五十年で最悪の水位という。死者が出て、建物も大きな被害を受けた。「いずれ住めなくなるのではないか」。住民の不安の声が報じられていた▼ベネチアは、過去にも水に漬かってきたとはいえ、近年は水害の多さと悪化が度を越しているようだ。政治家や専門家が、気候変動を原因の第一に挙げている▼オーストラリアの東部で続く森林火災も最悪のレベルという。複数の人が死亡している。森林火災を何度も経験してきた国であるが、近年は夏の猛暑が続き、今年は乾燥する季節の到来が早いようだ。専門家らが、ここでも地球温暖化に原因を求めている▼自然災害の原因が気候変動であると証明するのは簡単ではないだろうが、相次ぐ災害で、疑いは強まっていよう。あちらに洪水、こちらに火事。そんな地球にしてはならないという思いも強まる。
Pavel Zvychaynyy - Oxana Lebedew | 2018 DPV German Ch. Pro LAT, Augsburg - solo C