「諸君が国のために何ができるかを問いたまえ」で知られるケネディ米大統領の就任演説は一九六一年。後世に残る名演説と称揚された▼核武装でにらみあう敵陣営に対して「平和への探求を始めよう」と協力を呼びかけ、自国民には「専制、貧困、病気、戦争そのものといった人類共通の敵に対する闘争という重荷を」担っていくのだと語りかけた。掛け声で終わった面があるとはいえ、米国の崇高な理想と世界を主導する気概が端々に見える▼そんな理想も気概もどこかよその国の昔話のように思える出来事がまた一つである。トランプ大統領が、地球温暖化対策をめぐるパリ協定からの離脱を国連に通告した。通告可能になったその日の早業だった▼現代の「人類共通の敵」ナンバーワンは、気候問題であろう。米国はその難問で、歩調を他国に合わせるつもりはなく、割に合わないから、他国の分までも重荷を背負うつもりはない。そんな意思表示に思える離脱の通告である▼トランプ氏が来年の大統領選で再選するための戦略でもあるらしい。票になるか否かの判断が導いた答えのようだ▼離脱可能になる一年後の十一月四日は、大統領選挙翌日という。選ばれた人物の言葉は、かつてのように崇高な理想や気概を思わせるものになるのか、人類共通の難問の解決に不安を漂わせることになるのか。世界の大問題であろう。