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今日の筆洗

2019年11月14日 | Weblog
 「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」。軽蔑の交じった冷たい言葉をなんとなく覚えている人もいるのではないか。ヘッセの『少年の日の思い出』(高橋健二訳)。中学の国語の教科書で読んだ人もいるだろう▼少年時代、チョウを収集していた主人公はある日、出来心で友人のチョウの標本からヤママユガを盗みだし、誤って台無しにしてしまう。事実を知った母親に促され、友人に自分がやったと伝えるのだが、かえってきた言葉が冒頭のそれである▼「つまり人間はそんなやつなんだな」。チョウが人間に冷たくつぶやいていないか。そんな気分になる調査結果である。里山にはたくさんいると思われていた身近なチョウ八十七種類。その約四割までが「絶滅危惧種」のレベルにまで急速に減少しているそうだ▼日本自然保護協会が公表した。減少傾向にあるチョウには「国蝶(こくちょう)」オオムラサキや、ミヤマカラスアゲハなども含まれる。少し前までは普通に飛んでいたチョウが人間の油断と無関心によって消えていく▼水田の放置や開発など里山の環境変化が原因と疑われる。昆虫の急激な減少は世界的な傾向と聞くが、日本も例外ではなかった▼ヘッセはあの物語に「一度起きたことは、もう償いのできないものだ…」と書いた。失われゆく生物多様性についてはまだ償えると信じ、その改善に取り組みたい。