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今日の筆洗

2021年03月25日 | Weblog

 作家井上靖さんは金沢の旧制四高で柔道に打ち込んだ。日常的な楽しみを捨てて、ひたすら道を究めようとする若者らが集った世界を自伝的小説の『北の海』でえがいている▼<練習量がすべてを決定する柔道というのを、僕たちは造ろうとしている>と登場人物は言う。そんな世界に、自身の柔道人生を重ねていたようだ。五輪金メダリスト古賀稔彦さんである。井上さんへの共感の言葉が、兄元博さんの著書『古賀稔彦が翔(と)んだ日』の中にある▼天才肌の印象もあるが、日々の練習は、時に「狂気すら」感じるほどだったと兄は書き留めている。ひたすら道を究めようとしてきた人であろう。早すぎる五十三歳での訃報が昨日届いた▼ソウル五輪で惨敗している。周囲に頭を下げる両親の姿を映像で見た。通りすがりの人に次こそはと声をかけられた。一人で勝負しているのではないと思ったそうだ▼国際舞台では優勝以外求められず、美しい勝ち方でなければ不満も出る。体格の不利をはね返してこその声もあがる。日本柔道界のそんな重い期待を引き受けてきた。けがを乗り越えたバルセロナ五輪の金など、忘れられない場面は多い。引退後も指導者として、柔道界に尽くしてきた▼著書で得意の背負い投げの要点を解説している。一度仕掛けたら絶対に戻るな。短くとも、まっすぐに駆け抜けてきた柔道人生であっただろう。