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今日の筆洗

2021年03月11日 | Weblog

 学校にいる時、大きな揺れが襲ってきたそうだ。九歳の少年は高台に避難したが、やがて辛(つら)い事実を知る。父親と祖父母が津波で亡くなった。九歳の少年には抱えきれぬほど大きな悲しみだったはずだ▼避難所で、野球のボールを見つけたそうだ。グラブは誰かから借りた。悲しみの中でも野球を続けた。悲しいからこそ野球で忘れたかったのかもしれぬ。少年は大きな被害を受けた故郷の町を離れ、別の町に移り住んだ▼中学で腕を上げた。が、腰を痛めて、大切な試合で投げられなかった。悔しくて泣いた。どこまでも少年に悲しみと困難が追いかけてくる▼高校でその才能は一気に花開く。百六十キロ近い速球。日本中の注目を集めるが、再び、不運がめぐってくる。甲子園出場をかけた地方大会の決勝。少年の故障をおそれた監督は登板の回避を決断した。その判断は責められないが、甲子園の夢は消えた▼そして明日である。説明はいるまい。マリーンズの佐々木朗希投手。岩手県陸前高田市出身。十二日のオープン戦で投げるという。初の実戦登板となる。東日本大震災から十年。苦労を重ねた、あの日の少年がプロのマウンドに立つ。同じ悲しみを知る被災地にとって、登板は喜びであり、励みとなろう▼初球は直球か。十年が経過しても残る被災地の痛み。万感こもる速球が痛みを少しでも忘れさせてくれたらと願う。