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今日の社説

2016年01月21日 | Weblog

キャスター降板 何が起きているのか 2016年1月21日

 NHKや民放のニュース番組で著名なキャスターらが相次いで降板すると報道されている。安全保障関連法案について厳しい立場だった人もいる。放送の世界でいったい何が起きているのだろうか。

 テレビ朝日「報道ステーション」のメーンキャスターを務める古舘伊知郎さんが降板する。同じ三月末にはTBSの「NEWS23」のアンカー岸井成格(しげただ)さんも…。NHKの「クローズアップ現代」のキャスター国谷裕子さんの降板も検討されている。

 相次ぐ降板報道が、さまざまな臆測を呼んでいる。政権に批判的だったからではという風評もある。確かに古舘さんは記者会見の場でも「キャスターは反権力の側面がある」と語った。岸井さんは安全保障関連法案に対して「廃案に向けて声を上げ続けるべきだ」と発言したこともある。国谷さんは集団的自衛権の問題で、菅義偉官房長官に鋭い質問を浴びせたことがある。まさか三人の降板が権力からの圧力や自制の結果ではないことを祈る。

 しかし、著名なキャスターの降板は、放送界が政治報道に萎縮しているのではないかという印象を与えることは間違いなかろう。

 そもそもNHK会長人事が「首相のお友達を据えた」と言われた。一昨年末の衆院選のときは、自民党が在京各局に「公平中立、公正の確保」を求める文書を出したし、昨年にも任意にせよテレビ朝日とNHKの幹部から事情聴取している。権力の動きもまた目立っているからだ。

 政治報道の番組はストレートなニュースが中心で、「解説や評論が減った」という声もある。「政治そのものが扱われなくなった」という声も聞かれる。事実ならば、自由闊達(かったつ)であるべき放送ジャーナリズムの衰退である。

 もし政権の意向を忖度(そんたく)したり、報道内容を自粛したりしているならば、放送による表現の自由を定めた放送法の理念にもとる。

 同法一条の「不偏不党」の言葉の意味は、言い換えれば「自立」か「独立」である。それを保障するのは公権力の側である。

 「政治的に公平」という言葉も、自由であるからこそ、自律的に公平さを保ってほしいという倫理規定にほかならない。権力から離れ、自らの掲げた理想を目指し、自らの理性に従って権力を監視するのである。

 テレビが政治的に元気でないと、この国の民主主義も元気に育たない。


今日の筆洗

2016年01月21日 | Weblog

 喜劇俳優の古川ロッパが一九三九(昭和十四)年一月の日記にある舞台での失敗を書いている▼奉行役で出たお白州の場面で立ち上がる際、袴(はかま)に足を引っかけた。縫い目が破れて左足が丸見えに。仕方がなく、お白州からの退出を促すせりふは「一同立て。但(ただ)し余は都合があって立たぬぞ」-。出し物は、「遠山の金さん」。大受けだったと書いているが、何ともしまらぬ北町奉行の遠山金四郎である▼この人の「金さん」は主題歌そのままに<気前が良くて二枚目でちょいとやくざな遠山ざくら>であった。俳優で劇団前進座代表の中村梅之助さんが亡くなった。八十五歳。「金さん」といえば、この人のどこか温かみのある桜吹雪を思い出す方もいるだろう▼本名を三井鉄男とおっしゃる。役者の家としては随分、武張った名だが、自著「前進座80年」によれば名付け親は前進座創設メンバーの一人で、共産主義に傾いていた四代目の河原崎長十郎さん。「鋼鉄の男」を意味する旧ソ連の「スターリン」の名から取ったそうで、穏やかな梅之助さんとはなかなか結び付かぬ逸話である▼もっとも鋼鉄だったのは気持ちの方か。下血、脳梗塞、動脈硬化症など晩年は病との闘いが続いた。鉄の意志で劇団を守り、作品をこしらえ、観客をわかせた▼井の頭公園の桜はまだ先か。されど吉祥寺の千両役者にはお疲れさまの花が降る。