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今日の筆洗

2016年01月08日 | Weblog

 「踊り」とは、何だろうか。詩人で英文学者の加島(かじま)祥造さんの説明は、愉快だ。私たちは普段、何かの目的のために手を動かす。だが、その目的を捨てて動かしたらどうなるか▼詩人は語る。「僕はね、それは踊りになるんじゃないかと思う。踊りというものの美しさは、なんの目的もなく動いていることだ」「目的のないことが、踊りのすばらしさ」だと(『アー・ユー・フリー?』)▼競争に勝つため、いかに効率よく目的を達成するかという声ばかり大きくなる社会に、加島さんはのんびりした語り口で問い掛けた。外から求められる目的を忘れ、自分の内なる声に耳を傾けたらどうなるか?▼そんな疑問を持つことも許されぬ時代を彼は体験した。二十一歳で兵となり命令に服従するだけの日々を送るうち、檻(おり)に閉じ込められた心境になり、そこから逃れるためなら腕を切り落とそうというところまで追い詰められた▼「命の目的」さえ押し付けられる時代を生きたからか。加島さんは子ども向けの著書『わたしが人生について語るなら』で、「まわりの人の期待に応えることよりも、自分の命を守ること」を勧めた。競争社会でありとあらゆるものが比べられているが、命は比較するものではない▼「命はその人を生かそうとする」「自分のなかにある命を信じなさい」と、九十二歳で逝った加島さんは書き残している。