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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「律葉と秋葉と潤と響」19

2019年01月22日 | T.B.2024年

山道を進んでいた足を止め、
律葉は辺りを見回す。

「暖かくなったと思ったら、
 また急に寒くなったね」

ぶるっと、腕をさする。

服に付いたオナモミを取りながら
響が振り向く。

「こういう時に
 風邪とかひきやすいんだよね?
 気をつけなきゃ」

そうだよね、と問いかけられて
潤が頷く。

「そうだけど。
 俺は医者の息子であって、医者ではない」
「ネギを首に巻き付けたり」
「そういう事はしない。
 響、お前背中にもひっつき虫ついてるぞ」

あー、もう、
どこを歩いて来たんだお前は、と言いながら
潤が響の背中にオナモミをくっつけている。

取っていると見せかけて
くっつけている。

律葉は先日の
女子会を思い出す。

「……かっこいい、とは」

ふふ、と笑いながら
秋葉の方を見ると、
どこか顔色が悪い。

「秋葉、どうしたの?」

具合でも悪いのだろうか、と
律葉は顔を覗き込む。

「大丈夫、よ」

秋葉は首を振り、笑顔を浮かべるが、
すぐに浮かない表情を浮かべる。

「あれ、秋葉元気ない?」
「無理はするな。
 一度山を下りるか?」

潤と響も足を止める。

「……具合が悪い訳じゃ無いの」

「「「………」」」

気持ちの問題だろうか、と
3人は顔を見合わせる。

「あ、のね」

どう言ったものか、と
躊躇いながら秋葉が言う。

「今日の山は、なんか、変」
「変?」
「気味が悪いの、いつもと違う」

「………どういう事だ?」

問いかける潤も困っているが
聞かれた秋葉も更に困っている。

「上手く説明出来ないの。
 なんて言ったらいいのか」

「嫌な予感がするって事?」

響の言葉に、
しばらく考えて秋葉は頷く。

少し違う、でも。
言葉を当てはめるとしたらそれなのだろう。

そう、と律葉は答えるが
特段いつも通りの狩り場に見える。

今日は曇りの天気で少し薄暗い、
けれど、
この時期はいつもこんな天気。

「秋葉、
 先に帰っておく?」
「嫌、帰るならみんな一緒が良い!!」
「………秋葉」

「ごめん。変な事言って。
 私の事は気にしないで」

秋葉も分かっている。
気が乗らないから、
狩りをしてきませんでしたというのは通じない。

「じゃあ、今日は早めに切り上げるか。
 ぱぱっと数を仕留めてしまおう」

潤が言う。
確かに、大物狙いでなければ
時間いっぱい狩る必要もない。

「俺、子鹿とか子ウサギとか
 お肉柔らかいから好きだな」

獲れたらシチューかパイにしようよ、と
響が言う。楽しみだな、と。

「ありがと。
 なんだか、安心した」

ほっと、秋葉が息をつく。

「どうしよう。
 本当に気のせいかも」
「何も無いなら無いで
 それが一番だよ」

さぁ、行こう、と良いながらも
安心させるように
潤は秋葉の隣を歩く。

後ろから見ても、
秋葉が肩の力を抜いたのが分かる。

班のメンバーでは一番幼く、
不安が溜まることもあるだろう。

「響、ありがとう。
 秋葉いつもの調子に戻ったみたい」

律葉は振り返り、
最後尾を歩く響に言う。

「やっぱり、潤と響は律葉のことよく分かっているわね」
「そうかな?
 俺にしてみれば、
 同じ班に律葉が居て、秋葉も安心していると思うよ。
 2人は姉妹みたいだもんね」
「そう、かしら」

と、響の言葉が少しむず痒い。

律葉は一人っ子。
兄弟が居たら良いな、と
思った事もある。

「秋葉、なにかあったのかしら?」
「どうだろうねえ。
 でも、ああいう感覚は大事にした方が良いよ」

嫌な予感。という感覚。

「慣れてしまっているかも知れないけど
 俺達の狩りは命の取り合いなのだから」

「……そう、ね」

律葉は秋葉を見る。

そうやって、
命を落とした人達も居る。

彼らの腕が悪かったとは思わない。
ただ、
タイミングが、運が、
その時の何気ない行動が、狩りの結果を左右させる。

「今日は、帰ってからおれ」
「…………」
「…………」

「…………?」

会話が途中で途切れたな、と
続きを待つも、響からの言葉はない。

獲物でも居た?と振り返る。

「えっと?」

響が居ない。

さっきまですぐ後ろを
歩いて居たはずなのに。

「響?」

響が、ふざけているのだろうか。

「ひ」

一瞬、視界が真っ黒に変わる。


「あれ?」

秋葉と潤が後ろを振り返る。

「響と律葉、
 どこに行ったんだ?」

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