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「涼と誠治」26

2019年01月04日 | T.B.2019年


 高くそびえる樹。
 生い茂る草。

 山の中で、誠治はひとり。

「おお、西一族の誠治か!」

 その誠治の前に、

 ひとりの山一族が現れる。

 以前に、山の中で会った者。
 いや、それから、……何度も会っている、のか。
 もはや誠治とは顔見知りのように。

「約束通り来てくれたな!」
「これ、……」

 誠治は、一枚の紙を差し出す。

「それも約束通り!」

 山一族は、馬を下りる。

「んん。やるな。次期村長候補」

 山一族は、誠治に近付く。
 誠治が差し出した紙を受け取る。

「確かに、受け取った」

「で、」

 誠治は、山一族を見る。

「そちらのものは」

「うちのもの?」
「そう云う約束だろう!」
「何の話だ?」

「……え?」

 誠治の顔が曇る。

「西の情報を出せば、山の情報も出すと!」

 山一族は薄ら笑う。

「それを、西の村長に差し出して、褒美でももらうつもりだったんだろ」
「…………」
「俺は諜報も出来る、てな」

 山一族は、誠治が差し出した紙を見る。

 そこには、誠治が次期村長候補として学んだこと。
 今の誠治に伝えられている、西一族の諜報員の名。

「返せ!」

「おっと! 動くなよ!」

 山一族は、手を広げて見せる。

「仲間を呼ぶぞ」

「っっ!!」

 誠治は、山一族を睨む。

「はめたのか」

 山一族は、笑う。

「俺を、だましたんだな!」
「お前もよく山を信じてくれた」

「く、そっ……」

 誠治は武器を持つ。
 けれども、大雨のあと。
 足下は悪い。

 冷たい風。

 雨が近付いている。

「若い西一族に感謝するよ」
 山一族は云う。
「西一族の貴重な情報だ。使わせてもらう」

「山一族、め」

「ふっ……」
「…………?」
「……お前、本当に俺が山だと思っている?」
「え?」

 山一族が誠治に近付く。
 その顔に剣を向ける。

「これで終わりだ」

「くっ、」

 誠治は武器を握り直す、

 が

 身体が動かない。

 ただ、汗が流れる。
 誠治は目を強く閉じる。

「じゃあな」

「り、」

「ん?」

「――――、涼っ!!」

「は?」

 その瞬間、

 光

「…………っ!?」

 山一族は後ろへ吹き飛ぶ。




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