TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」27

2019年01月11日 | T.B.2019年


 何が、

 起きたのか。

 山一族は血を吐く。

 誠治は目を開く。

「何、だ……」

 倒れたまま、山一族が云う。

「何が起きた……?」

 口の中の血を吐き出す。
 やっとのことで、山一族は立ち上がる。

「こんな、もので……」

 ふらつく。
 が、その目は鋭い。

「!?」

「…………」

「誰、だ」

 山一族は、自身の手を見る。
 その手は、掴まれている。

「誰だよ、お前」

 握られた山一族の手には、先ほどの紙が。

「西一族、……」

 黒髪の

 ――――涼。

「いつの間に俺の横に」

「この紙を、」
「…………?」
「返せ」
「っ、うわぁあああっっ!」

 思わず、山一族は涼を突き飛ばす。
 何かの、痛み。

「涼っ」

 もはや紙はない。

 広げたその手のひらには、

 灰。

 手のひらは焦げ、うっすらと煙が見える。

 突き飛ばされた涼は、立ち上がる。

「黒髪……」

「誠治、武器を離すな」
「お前、」
「あちらは本気だ」
「…………」
「俺たちを殺すつもりだ」

「それは、正解」

 山一族は、再度、血を吐き出す。

「おい!」

 山一族が叫ぶ。

「黒髪の西一族だぞ!!」

 涼と誠治はあたりを見る。

 と

 音。
 草木が音を立てる。
 影から何人もの山一族が現れる。

 その動きは速い。

 涼と誠治は囲まれる。

「動くなよ」

 山一族は剣を持ち直す。
 ゆっくりと、ふたりに近付く。

「時間がない」
「苦しまずに殺してやる」

 誠治も剣を強く握る。
 けれども、状況は悪い。

 額から汗が流れる。

 涼は、誠治を制止する。

 その様子に、山一族が笑う。

「諦めたか、黒髪」

 涼は、ただ、手を差し出す。
 その手には、何も握られていない。

「涼っ」

 誠治は焦る。

「剣を取れ!」

「そうだ、黒髪」
 山一族が云う。
「剣を取れ」
「こちらも、心が痛い」

「涼、」

「どうせ、死ぬがな!」

 山一族がさらに近付く。

 涼が云う。

「誠治は逃がせ」
「何を云う!」
「俺が身代わりになる」
「だから、何を!」

 山一族は剣を鳴らす。

「誠治こそ、殺さねばならん!」
「俺が相手をしてやる」
「はっ、黒髪が!」

 山一族はおかしそうに笑う。

 雨が、降り出す。



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「律葉と秋葉と潤と響」17

2019年01月08日 | T.B.2024年

「年末のお疲れ様会」

へぇ、と潤が言う。

「……そんな事していたんだ」

そうだよ、と律葉は続ける。

「私の家に集まって、
 ご飯はそれぞれ家から持ち寄って」
「ふぅん」
「響が持ってきてくれた茶葉、
 あれ、きっと高級な物よね。
 秋葉の家のスィートポテトも美味しかったなぁ」
「姉さんが作ったのだろうね」

そう言って、
潤は草陰に身を潜ませる。

いけない、狩りの最中だった、と
律葉も矢筒から矢を取り出し
すぐにでも狙いを定められるようにする。

獲物を挟み撃ちに出来るよう
潤と秋葉は向こう側に回っている。

寒さも峠を越し、
気候も暖かくなってきたので
久しぶりの狩りが行われている。

「………」
「………」

狩り自体もそうだが、
潤との狩りが久しぶりなので
少しおしゃべりになってしまったかもしれない。

彼との距離感はどうだっただろうか。

読み誤ったかなぁ、と
律葉は首を振る。

まずは狩りに集中しなくては。

「ねぇ、潤、むこうの草むらの方」
「あぁ。あのあたりに居そうだな」

潤が向こう側に居る響達に
囲い込んで
こちらに追い込むように、合図を送る。

「………ところで」
「ええ」
「その流れの
 俺のお帰りなさい会ってどうなったの」
「…………」

「おーい、そっち
 行ったよ!!!」

響達に追い込まれた獲物が
こちらに逃げ込んでくるので
2人はそれぞれに武器を構える。

矢を番えながら律葉は答える。

「もしかして拗ねてたの!?
 不満からの沈黙だったの!?」

潤も武器を構えながら言う。

「だって、俺の居ない間に
 残りの3人でお疲れさま会とか、ずるくない!?」
「だから
 お帰りなさい会をしようって!!」
「それっていつ!?
 年明けとっくに過ぎてるんですけど!!」
「それは潤が
 狩りがないなら年越しは南一族の村で過ごすって
 帰ってくるのが更に1ヶ月遅くなったからでしょ!!」

律葉の矢が獲物に当たる。
が、それは僅かに動きを止めるだけで
決定打にはならない。

「響からその話聞いて
 それなら俺もって
 パイ焼く練習してたんですけど!!」

潤の一撃で獲物は動きを止める。
秋葉と響も近寄り、
動きを見る。

最後の仕留め時は
どんなときにも油断してはいけない。

「「「「…………」」」」

その動きが完全に止まったのを確認して
響が呟く。


「潤って、パイとか焼くんだ」


そう言うわけで、と
律葉は父親に言う。

「潤の家でお帰りなさい会をするの」
「またか」
「前回とは趣旨が違うの」
「いい加減にしたらどうだ」
「料理は自分で準備するから」

前回は確かにおもてなしと言うことで
父親にも手伝って貰ったので
手間はかけたが。

「そうじゃない」

すこし呆れたように父親が言う。

「狩りの班は決められたことだから
 どうこうは言わないが、
 普段の付き合いまで親密になる必要は無い」
「そんな。
 みんなで集まってご飯食べるだけよ」
「深入りをし過ぎるな、と言ってるんだ。
 後からきつくなるぞ」
「………お父さんは過保護なのよ。
 断るべき所は断れるから大丈夫よ。
 ごちそうさま!!」

ふん、と律葉は立ち上がって
食器を片付ける。


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「涼と誠治」26

2019年01月04日 | T.B.2019年


 高くそびえる樹。
 生い茂る草。

 山の中で、誠治はひとり。

「おお、西一族の誠治か!」

 その誠治の前に、

 ひとりの山一族が現れる。

 以前に、山の中で会った者。
 いや、それから、……何度も会っている、のか。
 もはや誠治とは顔見知りのように。

「約束通り来てくれたな!」
「これ、……」

 誠治は、一枚の紙を差し出す。

「それも約束通り!」

 山一族は、馬を下りる。

「んん。やるな。次期村長候補」

 山一族は、誠治に近付く。
 誠治が差し出した紙を受け取る。

「確かに、受け取った」

「で、」

 誠治は、山一族を見る。

「そちらのものは」

「うちのもの?」
「そう云う約束だろう!」
「何の話だ?」

「……え?」

 誠治の顔が曇る。

「西の情報を出せば、山の情報も出すと!」

 山一族は薄ら笑う。

「それを、西の村長に差し出して、褒美でももらうつもりだったんだろ」
「…………」
「俺は諜報も出来る、てな」

 山一族は、誠治が差し出した紙を見る。

 そこには、誠治が次期村長候補として学んだこと。
 今の誠治に伝えられている、西一族の諜報員の名。

「返せ!」

「おっと! 動くなよ!」

 山一族は、手を広げて見せる。

「仲間を呼ぶぞ」

「っっ!!」

 誠治は、山一族を睨む。

「はめたのか」

 山一族は、笑う。

「俺を、だましたんだな!」
「お前もよく山を信じてくれた」

「く、そっ……」

 誠治は武器を持つ。
 けれども、大雨のあと。
 足下は悪い。

 冷たい風。

 雨が近付いている。

「若い西一族に感謝するよ」
 山一族は云う。
「西一族の貴重な情報だ。使わせてもらう」

「山一族、め」

「ふっ……」
「…………?」
「……お前、本当に俺が山だと思っている?」
「え?」

 山一族が誠治に近付く。
 その顔に剣を向ける。

「これで終わりだ」

「くっ、」

 誠治は武器を握り直す、

 が

 身体が動かない。

 ただ、汗が流れる。
 誠治は目を強く閉じる。

「じゃあな」

「り、」

「ん?」

「――――、涼っ!!」

「は?」

 その瞬間、

 光

「…………っ!?」

 山一族は後ろへ吹き飛ぶ。




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2019年始

2019年01月01日 | イラスト

年も明けて2019年!!

みなさん
明けましておめでとうございます

TOBAブログ(別館)は毎週火、金を
更新日としているのですが、
今年はちょうど元日が火曜日。

なんだか幸先よく始められる気がします。

マイペースで進めていきますが
今年もTOBAブログ(別館)をどうぞよろしくお願いします。




東一族、佳院くんと日向子ちゃん。

水辺世界に干支を当てはめた場合、
2人は亥年と言う事で今回選ばれました。

今年は、
未回収の作品を仕上げられたら良いなと
(途中で止まっているのとか)
(書く、書くといてまだ手を付けていないのとか)

それでは
良いお正月をお過ごしください~

by ともえ&ばしょ(TOBA)