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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」29

2019年01月25日 | T.B.2019年


 ふたりは、そこに茂る草で、身を隠す。

 涼は顔を上げる。
 誠治に静かに、と、示す。

 声がする。

 裏一族は、ふたりを見つけられない。
 が、
 それも時間の問題。

「誠治、」
「涼……」
「どうした?」
「…………」
「…………」
「……すまない」
「誠治」
「俺は何てことを……」
「…………」
「西一族の情報を、裏に……」

 涼は首を振る。

 云う。

「そう、彼らは裏一族だ」
「……ああ」
 誠治はうなだれる。
「まさか裏一族だったとは……」

「戦術は山一族とは比にならないだろう」

 涼が云う。

「使える者は利用し、邪魔な者は簡単に殺す」
「…………」
「走れるか?」

「ああ……」

「山を下りて、西へ逃げろ」
「お前もだ」
「…………」
「涼?」

「俺は、目と神経が悪い」
「?」
「足場の悪い場所は苦手なんだ」
「俺が腕を引いてやる!」

 涼は首を振る。

「ひとりで行け」
「何を云う」
「俺は、大丈夫」
「ばかな!」
 誠治が云う。
「一緒に帰るんだよ!」

 誠治は涼を掴む。

 立ち上がる。

「誠治」
「行くぞ!」
「逃げ切れない」

 矢が飛んでくる。

 誠治はそれを避ける。

「いたぞ!」
「ここにいる!」
「集まれ!!」
「殺せ!!」

 誠治は走り出す。

 涼も走る。

 雨が降り続ける。
 先ほどよりも、強い雨。

 飛びかう矢。

「気を付けろ!」

 涼は誠治に引かれながら、走る。

 その足下を見る。
 いや、よくは見えない。

 手をかざす。

 誠治は走り続ける。

「待て!」
「っっ!?」

 伸びる草に、裏一族は足を取られる。

「おいっ」
「そんなものに、足を取られるな!」
「何かがおかしいぞ!?」

 ふたりの姿は遠のく。

「やむを得ん。魔法だ」

 ひとりの裏一族が云う。

「本物の山一族に見つかったら面倒だと思ったが」
 息を吐く。
「やつらを殺すことを優先する」
 他の裏一族も頷く。
「もはや山一族に気付かれている」

 雨の降る中。

 裏一族は、うっそうと伸びる樹々を見上げる。

 何羽もの鳥。

 が、そこにいる。

 明らかに彼らを窺っている。

 ――山一族の、鳥。

「ちっ」

 ひとりの裏一族が杖を取り出す。

 呪文。




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