ふたりは、そこに茂る草で、身を隠す。
涼は顔を上げる。
誠治に静かに、と、示す。
声がする。
裏一族は、ふたりを見つけられない。
が、
それも時間の問題。
「誠治、」
「涼……」
「どうした?」
「…………」
「…………」
「……すまない」
「誠治」
「俺は何てことを……」
「…………」
「西一族の情報を、裏に……」
涼は首を振る。
云う。
「そう、彼らは裏一族だ」
「……ああ」
誠治はうなだれる。
「まさか裏一族だったとは……」
「戦術は山一族とは比にならないだろう」
涼が云う。
「使える者は利用し、邪魔な者は簡単に殺す」
「…………」
「走れるか?」
「ああ……」
「山を下りて、西へ逃げろ」
「お前もだ」
「…………」
「涼?」
「俺は、目と神経が悪い」
「?」
「足場の悪い場所は苦手なんだ」
「俺が腕を引いてやる!」
涼は首を振る。
「ひとりで行け」
「何を云う」
「俺は、大丈夫」
「ばかな!」
誠治が云う。
「一緒に帰るんだよ!」
誠治は涼を掴む。
立ち上がる。
「誠治」
「行くぞ!」
「逃げ切れない」
矢が飛んでくる。
誠治はそれを避ける。
「いたぞ!」
「ここにいる!」
「集まれ!!」
「殺せ!!」
誠治は走り出す。
涼も走る。
雨が降り続ける。
先ほどよりも、強い雨。
飛びかう矢。
「気を付けろ!」
涼は誠治に引かれながら、走る。
その足下を見る。
いや、よくは見えない。
手をかざす。
誠治は走り続ける。
「待て!」
「っっ!?」
伸びる草に、裏一族は足を取られる。
「おいっ」
「そんなものに、足を取られるな!」
「何かがおかしいぞ!?」
ふたりの姿は遠のく。
「やむを得ん。魔法だ」
ひとりの裏一族が云う。
「本物の山一族に見つかったら面倒だと思ったが」
息を吐く。
「やつらを殺すことを優先する」
他の裏一族も頷く。
「もはや山一族に気付かれている」
雨の降る中。
裏一族は、うっそうと伸びる樹々を見上げる。
何羽もの鳥。
が、そこにいる。
明らかに彼らを窺っている。
――山一族の、鳥。
「ちっ」
ひとりの裏一族が杖を取り出す。
呪文。
NEXT