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「琴葉と紅葉」23

2018年10月19日 | T.B.2019年


 その後、
 琴葉は西一族の村内で村人に連れられ、病院へと入る。

「いったい、どこへ行っていたの!」

 病室に入るなり、母親は声を上げる。

 横になっている琴葉は、ちらりと母親を見る。

「いや、うん。……ちょっと」
「ちょっとって、どこよ!」
「えーっと、たまにはお肉食べたいなぁなんて」
「肉?」
「私も狩りに行けるかなぁ、て」

「琴葉!」

 母親は、その横に坐る。

「何よ……」
「心配したのよ」
「…………」
「あなたがいなくなって」
「……嘘」
「心配したに決まってる!」
「いつからいなかったのか、知らないくせに?」

 大きな声で、

「いつもいつも、私がどこで何をしているか知らないくせに!」

 その声に、母親は驚く。

「琴葉……」

「いいの、もう!」

「ねえ、琴葉」

 琴葉は、顔を隠す。

「……心配しているのは本当よ」
「…………」
「あなたが黒髪の子と何かあったんじゃないかと」
「それは、ない」

「あなたに何かあったら……」

「…………」

「ねえ」

「何があるって云うの?」

「それは……」

 琴葉の母親は、琴葉に近付く。

「あなたに何かあっても、あの子に何かあっても駄目なのよ」
「それじゃ判らない」
「私たち家族は……」
「何?」
「ごめんなさい、これ以上は……」

「…………」

「琴葉」

「…………」

「お願いだから、……ふたりとも、何もしないで」

 琴葉は顔を出し、母親を見る。

「母さん」

 琴葉は云う。

「何かよく判らないけれど、母さんは黒髪の子を利用してる?」
「え?」
「母さんがあいつを嫌っているわけじゃないのは知ってる」

 琴葉は目を細める。

「でも何か、利用してる?」
「それは、」
「どうなの?」
「あの子は、……」
「何?」
「あなたとは馴れ合わないようにしていると」
「…………」
「私がそう訊ねたのだけど……」
「ふーん」
「でも、それでいいと、母さんは思っている」
「へえ」

 琴葉は云う。

「ならやっぱり、彼を利用していると?」
「違うわ」
「何が違うの?」
「ただ、あの子には、自分の立場を判ってほしいと」
「もういい!」

 琴葉は再度、顔を隠す。

「母さんのこともあいつのこともいいの」

 ただ、呟く。

「私はただ、自分が生きられる場所を探したかっただけ」




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