その後、
琴葉は西一族の村内で村人に連れられ、病院へと入る。
「いったい、どこへ行っていたの!」
病室に入るなり、母親は声を上げる。
横になっている琴葉は、ちらりと母親を見る。
「いや、うん。……ちょっと」
「ちょっとって、どこよ!」
「えーっと、たまにはお肉食べたいなぁなんて」
「肉?」
「私も狩りに行けるかなぁ、て」
「琴葉!」
母親は、その横に坐る。
「何よ……」
「心配したのよ」
「…………」
「あなたがいなくなって」
「……嘘」
「心配したに決まってる!」
「いつからいなかったのか、知らないくせに?」
大きな声で、
「いつもいつも、私がどこで何をしているか知らないくせに!」
その声に、母親は驚く。
「琴葉……」
「いいの、もう!」
「ねえ、琴葉」
琴葉は、顔を隠す。
「……心配しているのは本当よ」
「…………」
「あなたが黒髪の子と何かあったんじゃないかと」
「それは、ない」
「あなたに何かあったら……」
「…………」
「ねえ」
「何があるって云うの?」
「それは……」
琴葉の母親は、琴葉に近付く。
「あなたに何かあっても、あの子に何かあっても駄目なのよ」
「それじゃ判らない」
「私たち家族は……」
「何?」
「ごめんなさい、これ以上は……」
「…………」
「琴葉」
「…………」
「お願いだから、……ふたりとも、何もしないで」
琴葉は顔を出し、母親を見る。
「母さん」
琴葉は云う。
「何かよく判らないけれど、母さんは黒髪の子を利用してる?」
「え?」
「母さんがあいつを嫌っているわけじゃないのは知ってる」
琴葉は目を細める。
「でも何か、利用してる?」
「それは、」
「どうなの?」
「あの子は、……」
「何?」
「あなたとは馴れ合わないようにしていると」
「…………」
「私がそう訊ねたのだけど……」
「ふーん」
「でも、それでいいと、母さんは思っている」
「へえ」
琴葉は云う。
「ならやっぱり、彼を利用していると?」
「違うわ」
「何が違うの?」
「ただ、あの子には、自分の立場を判ってほしいと」
「もういい!」
琴葉は再度、顔を隠す。
「母さんのこともあいつのこともいいの」
ただ、呟く。
「私はただ、自分が生きられる場所を探したかっただけ」
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