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「琴葉と紅葉」24

2018年10月26日 | T.B.2019年


「何よ」

 病室に入ってきた者を見て、琴葉は目を細める。

「今度は、あんたが説教?」

 紅葉。

「何を云うのよ」

 紅葉は、持ってきたものを見せる。

「ほら、食べて」
「…………」
「元気出しなよ」
「…………」
「ね?」
「元気だし……」

 紅葉は、果物を横の机に置く。

 椅子に坐る。

 しばらくそのまま、時が過ぎる。

「あの、琴葉」

 口を開いたのは、紅葉。

 琴葉は、手織りの布を深く被っている。

「心配したんだけど」
「…………」
「聞いている?」
「何……」
「いったい、どこへ行っていたの?」
「どこにって」

「あの、……ひとりで?」

 紅葉は、琴葉を見る。

 琴葉は、顔を出す。

「ひとりよ」
「そう」
「何? 黒髪とどこか行っていると思った?」
「いえ、……そうじゃなく、」

 琴葉は云う。

「外へ行こうとして怪我して」
「…………」
「そのまま数日間、」
「琴葉、」
「そう云えって云われたのよ!」
「あのね!」

 紅葉が云う。

「あなたがいないと云われている間、どうしていたのか知っている!?」

「どうしていたのか、て?」

「黒髪の子よ!」

 その言葉に、琴葉は目を細める。

「何を、云いたいの?」

「あなたのために、どれだけ苦労したと!」
「苦労?」

 その言葉に、琴葉は笑う。

「いったい、どんな苦労をしたと云うの」

「家に閉じ込められていたのよ!」

「閉じ込め?」

 琴葉は首を傾げる。

 自分が北へ行っている間、
 西では、そう云うことになっていたのか。

 琴葉は鼻で笑う。

「ふーん。閉じ込め、ね」

「笑いごとじゃないでしょう!」

 紅葉は立ち上がる。

「私はっ」

「…………?」

「私は、……」

「…………」

「…………」

「心配しないでよ」

 琴葉は云う。

「あ、いや。心配しているのは、黒髪のことだろうけど」

 琴葉は目を瞑る。

「私たち、西一族の厄介者同士」

 云う。

「ただ、まとめられているだけだから」



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