「何よ」
病室に入ってきた者を見て、琴葉は目を細める。
「今度は、あんたが説教?」
紅葉。
「何を云うのよ」
紅葉は、持ってきたものを見せる。
「ほら、食べて」
「…………」
「元気出しなよ」
「…………」
「ね?」
「元気だし……」
紅葉は、果物を横の机に置く。
椅子に坐る。
しばらくそのまま、時が過ぎる。
「あの、琴葉」
口を開いたのは、紅葉。
琴葉は、手織りの布を深く被っている。
「心配したんだけど」
「…………」
「聞いている?」
「何……」
「いったい、どこへ行っていたの?」
「どこにって」
「あの、……ひとりで?」
紅葉は、琴葉を見る。
琴葉は、顔を出す。
「ひとりよ」
「そう」
「何? 黒髪とどこか行っていると思った?」
「いえ、……そうじゃなく、」
琴葉は云う。
「外へ行こうとして怪我して」
「…………」
「そのまま数日間、」
「琴葉、」
「そう云えって云われたのよ!」
「あのね!」
紅葉が云う。
「あなたがいないと云われている間、どうしていたのか知っている!?」
「どうしていたのか、て?」
「黒髪の子よ!」
その言葉に、琴葉は目を細める。
「何を、云いたいの?」
「あなたのために、どれだけ苦労したと!」
「苦労?」
その言葉に、琴葉は笑う。
「いったい、どんな苦労をしたと云うの」
「家に閉じ込められていたのよ!」
「閉じ込め?」
琴葉は首を傾げる。
自分が北へ行っている間、
西では、そう云うことになっていたのか。
琴葉は鼻で笑う。
「ふーん。閉じ込め、ね」
「笑いごとじゃないでしょう!」
紅葉は立ち上がる。
「私はっ」
「…………?」
「私は、……」
「…………」
「…………」
「心配しないでよ」
琴葉は云う。
「あ、いや。心配しているのは、黒髪のことだろうけど」
琴葉は目を瞑る。
「私たち、西一族の厄介者同士」
云う。
「ただ、まとめられているだけだから」
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