TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「東一族と裏一族」17

2018年10月12日 | T.B.1997年

「裏一族は?」

「飛ばしました」
「どこへ?」
「北一族の方向へ」

 東一族式紋章術。

 転送術。

 かなりの力を使うが、人を別の場所へと転送することが出来る。

「ついでに印も」

 安樹が云う。

「東一族の村に近付けば、感知が出来るようにしてあります」
「そうか」
「まあ、解除されれば、意味はありませんが」

「期待は出来ないな」

「裏一族ですから」

 おそらく
 いろんな魔法に精通した者たちが集まっている。
 解除はたやすいだろう。

 気休めにしかならない。

「蒼子」

 安樹は、蒼子に近付く。

「大丈夫か」
「ええ……」

 蒼子は立ち上がる。

「無理はするな」

 安樹が云う。

「裏一族は、これからも入り込んでくるでしょう」
「だろうね」

 光院が云う。

「とりあえずは、満樹を狙っているんだろう」
「満樹にも印を」
「そんなことを……」

 蒼子はうなだれる。

「満樹を守るためにね」

 光院が云う。

「満樹は、おそらくまた村を出るはずだ」
「でしょうね」
「自身が村で劣っていると思っているから」

 云いながら光院は首を傾げる。

「そんなことはないんだけどね」
「恐縮です」

 安樹が頭を下げる。

 光院は笑う。

 安樹は、再度頭を下げる。
 歩き出す。

 蒼子も振り返り、それに続く。

 光院はその背中を見る。

 そして足下を見る。

 先ほどの魔法痕が、まだ残っている。

 その一部が、黒く光る。

「困ったな」

 光院は横にいる狼をなでる。

「裏一族も、とんでもない印を残してくれたようだ」

 黒く光る部分は

 東一族が使う術式ではない。

 光院は手をかざす。

 そこに、新たな陣が現れる。

 その陣が、黒い光を飲み込む。

 淡い光。

 黒い煙が立ち上る。

 やがて、その光ごと

 光院の手に戻される。

「さあ、行こうか」

 光院は狼と歩き出す。

 この黒い光は、やがて。



T.B.1997年 東一族と裏一族

「律葉と秋葉と潤と響」5

2018年10月09日 | T.B.2024年

「おはよう」
「おはよう、今日もよろしく」
「私おやつ持ってきたよ」
「俺も俺も」

もう数回目の狩り。

予定より早く着いても、
お互いの顔を探して
自然とそちらに足を向ける。

律葉はどこかむず痒いような気持ちになる。

学術教室のクラス分けを
もっと小さくした感じ。

「律葉、今日は弓矢?」
「ええ」

狩りの際の武具は
数種類持ち歩くことが多い。
ほとんどが2種類。

目標が遠くに居る時に使う、小刀や弓矢の投擲器。
接近時に使うときの、殺傷力の強い
ナイフや剣・槍、力のある者は斧等の重い武器。

弓矢は好んで使う者が多い。

ほう?と、潤と響が覗き込む。

「使い込んであるな」
「譲り受けた物なのよ。
 少し大きいでしょう。
 力が要るけど飛距離が出るの」
「……なるほど~」
「使ってみたいって思っただろ」
「うんうん。
 律葉。休憩時間とか、どう?」

別にいいけど、と言いかけて
律葉は響をからかう。

「さて、どうしようかな」
「お願い。
 大事に扱うから」

ね?ね?と
響が手を合わせる。

「今日の狩りが終わったら
 きっと喉が渇いているわね」
「え?うん?」
「そうだな。
 きっと今が旬の果実のジュースが
 ぴったりだろうな」
「潤まで!?
 つまりおごれってこと??」

そうねぇ、と潤の話しに乗っかってみる。
おごりは別として、狩りの後に皆でお茶をするのも
良いのかも知れない。

「冗談よ。
 今日の狩りで落ち着いた時間があったらね」
「やった。
 ありがと律葉」
「律葉、こいつ遠慮無しにグイグイ来るから
 ちゃんと節度を持たせとけよ」

同い年で親戚なだけあって
潤は響を上手くこなしている。

「潤と、響は従兄弟だっけ?
 仲が良いのね」
「ちょっと違うけど。
 それにそんなに深い付き合いでもないよ」
「そうなの?」
「俺、他の村での生活の方が長いし」
「ああ、潤はそうだったわね」

彼は幼少期を南一族の村で過ごしている。
親は病院の医師、と
その珍しさで西一族の村に戻ってきた時は
しばらくその話題で持ちきりだった。

「俺よりは、
 響と秋葉の方が長いと思うよ」
「そうなの、秋葉?」

人の家の事はよく分からない。
振り返るが
秋葉は話しを聞いて居ないようだった。

うわあ、と
目を輝かせて律葉の弓を眺見つめている。

「持ってみる?」
「いいの?」
「いいわよ」

秋葉はまだ年相応に小さい。
成長に合わせて武器を選んでいくのだろう。

もしかしたらぐんぐんと伸びて
律葉を追い越すかも知れないが
今は妹が出来たような気持ちで居る。

「おとうさんも、
 少し大きな弓を使うの」
「そう」
「私もいつか使えたら良いな」
「練習するときは、
 私の弓を使っても良いわよ」
「本当!?
 ありがとう律葉!!」

自分にはすぐにうんと言ってくれなかったのに、と
思わない事も無かったが
響はうんうんと頷いて言う。

「女の子が仲良いのって
 良いよね」


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「東一族と裏一族」16

2018年10月05日 | T.B.1997年

 裏一族が見る方向を、蒼子は見る。

 風が吹く。

 そこに、

 光院。

「早いな。大将さんにでも云われたか」

「どうかな?」

「ああ、嫌だなぁ」

 そう云いながらも、おもしろそうに。
 その笑いは、愉快と云わんばかりに。

「光栄なんだけどねぇ」

 裏一族は蒼子の腕を掴んだまま、云う。

「俺らみたいな裏もんが、一族の重役に会えると云うこと」
「それはよかった」
「あんたの弟さんにも会ったぞ」
「そう」
「怖いな、あいつ。裏に勧誘したいぐらいだ」
「伝えておくよ」

 裏一族は、一歩出す。

 その動きに光院は首を振る。

「ここまでって意味か?」

 裏一族は、地面を指さす。
 そのまま指を横に動かし、線を表す。

 境界線、の意味で。

「中には入れてくれないんだな」
「それはどうかな」
「試していいのか」
「それもありだ」
「ふーん」

 裏一族は、光院の横にいる狼を見る。

「でも獣がいるからなぁ」
「この子は、怖くない」
「いや、獣は友だちじゃないから。俺は」
「そうか。西一族は動物が怖いのか」
「…………」

「さあ、東一族を放してくれないか」

「…………」

「どうした、裏一族?」

 瞬間

 裏一族は、蒼子を突き倒す。

 取り出した剣を、振り下ろす。

「やめろ!」

「きゃ、」

 蒼子は顔を伏せる。

 が

「!!?」

 足下が光る。

「これはっ」

 裏一族の足下が光る。

「何」

 東一族式紋章術。

「くっ!」

 あまりのまぶしさに、裏一族は目がくらむ。

 蒼子も目を閉じる。

「!?」

「これはっ」

 …………。

 …………。

 風。

 何も

 聞こえない。

 蒼子は、顔を上げる。
 目を開く。

 横に、

 裏一族はいない。

「これは……?」

 光院を見る。
 光院は頷き、指を差す。

 その方向に

「安樹」



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「律葉と秋葉と潤と響」4

2018年10月02日 | T.B.2024年

「狩りの班はどうだ?」

律葉の父親が尋ねる。

不規則な時間で働いている父親とは
久しぶりに一緒に食事をとる。

「結構慣れてきた」

狩りの一族とは言え
毎日狩りに出ている訳では無い。

7日あれば、そのうち
狩りに出るのは2~3日。

それも、数多くある班を当番制で回しているので
あの3人と狩りで顔を合わせるのは
10日に一度か二度ほど。

まだ数回しか
狩りをしていない、けれど。

「上手くやれていると思う」

ふぅん、と父親は少し考える。

「響に、潤、秋葉、か」
「えぇ」
「大した班だな」
「………そう、ね??」

何と、父親が具体的に言わないが
制するように律葉に告げる。

「人前では使うなよ」
「分かってる」

ごちそうさま、と
律葉は立ち上がる。

食器を流しに運び、水に浸す。

「後で洗うから
 水につけておいて」
「ん」

返事を聞きながら
壁に貼ってある紙を見る。
そこには父親の予定が書き込まれている。

「夕方に出るの?」
「ああ、夕飯は作って行く」
「良いよ。
 呼び出しがあるかもでしょう」
「今日は大丈夫だろう。
 ベーコンがあるから、ベーコンポテトだ」
「お父さん、それ好きよね」

お茶を入れ、
自室に運び、本を読みながらお茶を飲む。

「おい、食器は洗って置いたぞ」

父親が部屋に顔を出す。

「ありがと。
 ………ノックぐらいして」

もう、と一言付け足して
律葉は立ち上がる。
鏡を覗き込み
肩の所で少し跳ねている髪を
整える。

「出掛けるのか?」
「うん、ちょっと買い物」

家を出て、
村の中央地に向かい歩いて行く、
律葉の家は端の方にあるので
少し時間が掛かる。

広場を抜け、
橋を渡り、
商店が集まる通りに向かう。

小物を扱う店に入り
気になった所を眺めて回る。

「律葉?」

呼ぶ声に振り向くと
棚の向こうから秋葉が顔を出す。

「こっちだよ」

ぴょんぴょんと跳ねて手を振る。

「秋葉も買い物?」
「うん。ペンを買いに来たの。
 狩りじゃない日に会うのも良いねぇ」
「えぇ」

ふと、律葉は周りを見回す。

「潤と響は居ないの?」
「居ないよ~。
 親戚だけど、それはそれ」

それに、と
店内を見回しながら秋葉が笑う。

「こんなかわいいお店
 男の子は入りにくいよね」
「確かに」
「―――律葉は髪留め買うの?
 もうすぐ結べそうだもんね」

そうなのよ、と言いながら
律葉は棚を見回す。

「うーーん」
「良いのあった?」
「なんか、ピンと来る物がない」
「それは仕方無い」

しばらく悩んで、
他の店も回ったが
これという物が無く
結局何も買わずに家に帰る。

「ただいま」

玄関を開けるが、
家の中は暗い。

やっぱり、とため息をつき
明かりを灯す。

テーブルの上に、
呼び出しがあって出る事になった、と
父親からのメモが残されている。

「だから言ったのに」

さて、と手を洗い、
野菜庫からジャガイモを取り出す。

「私はスライスした方が
 好きなんだけどな~」

伯母がいつも届けてくれる
手作りパンを食べながら
律葉はベーコンポテトを作る。


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