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「律葉と秋葉と潤と響」7

2018年10月23日 | T.B.2024年

ぽつりと頬に雫が落ちる。

「あ~、降り出したね」

予想していたよりも早く
雨が降り始める。

「仕方無い、
 本降りになる前に引き返そう。
 ……良いだろ、律葉?」

潤は律葉に問いかける。

「ええ」

なぜ自分に問いかけるのか、と
どこかモヤモヤしながら律葉は頷く。

「じゃあ、帰りは俺が後ろ歩くね」
「任せたぞ響。
 先頭は俺で、
 秋葉、足元に気をつけろよ」
「……」
「秋葉?」

秋葉が遠くを見つめている。

「どうしたの秋葉」
「……静かに」

秋葉が声を潜めて離れた茂みを指差す。

「居る」

「え?」

律葉には分からない。
他の2人も首を傾げている、が
物音を立てないように身を潜める。

「秋葉どこに」
「しっ」

ぬっ、と
茂みから1匹の獲物が顔を出す。

「鹿、じゃないね」

似てるけど、と響が言う。

「山羊の系統だろうな」
「どうする?」

そうしている間にも
雨は降り続けている。

「試したい」

律葉は答える。
もう帰ろうとしていたところ
現れたチャンスなのだ。

「一度だけだ。
 逃げてしまったら追わない。そこまでだ。
 響も良いか?」
「もちろん」
「私も大丈夫」

二手に分かれ、
追う側と、追った先で待ち構える側に分かれる。

風上にならないよう、
潤と秋葉が獲物に近づいていく。

そこから追われて来るだろうところに
目星を付けて、
律葉と響が回り込む。

「律葉」

響が大丈夫と律葉の肩を叩く。

「俺、野生の山羊は食べるの初めてかも。
 楽しみだね」
「ええ」

息を殺し、
獲物に近づいていく潤と秋葉。
その様子を律葉達は見守る。

そっと、矢をつがえる様子が見える。
同じ様に律葉達も
それぞれに武器を構える。

狩りは始まってしまえば
あっという間の出来事。
十秒二十秒で命の奪い合いとなる。

「………」

狩りを行う直前の
この瞬間はいつも指が震える。
緊張からか、それとも恐怖なのか。

鼓動の音が
やけに大きく聞こえる。

「………」

最初の一投。
それが放たれる。

と、思われたその時。

「っ!!」

雨で足元が悪かったのだろう、
矢をつがえていた秋葉が
足を滑らせる。

秋葉は受け身を取って
転がるが
その音に獲物が反応する。

「秋葉っつ!!」

潤が秋葉を引っ張り上げ、
自分の後ろに下がらせる。

獲物は逃げない。
そのまま潤と秋葉の方に駆け出してく。

潤が武器を持ち替えたのが分かる。
近距離用に
大型の武器にしたのだ。

響もそちらに走り出す。

獲物の動きも早い、
あっという間に2人の元に迫る。

「いやっ!!」

2人が蹴り飛ばされたように見えて
思わず律葉は悲鳴をあげる。

「大丈夫だ、落ち着け」

潤の声が聞こえて
律葉は矢をつがえ直す。

響が自分の太刀を振るっているのも見える。

大丈夫。大丈夫。
ちゃんと間に合う。

律葉は自分に言い聞かせながら
もう一度矢をつがえ、
弓を引き絞る。

はーはーと自分の呼吸の音が
耳に届く。

落ち着いて。

一度目を閉じ、そして開く。
力いっぱい引き絞った弦を
今、と放つ。

「        」

大きな悲鳴が辺りに響き渡る。

それを皮切りに
雨が強く降り始める。


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