TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「ヨーナとソウシ」2

2016年10月04日 | T.B.1998年

「いらっしゃいませ」

受付にいた青年が立ち上がる。

「お二人様ですね。
 それでは、こちらのお宿帳にお名前を」

ペンを受け取った旅人は
青年の様子に首を傾げるが
すぐに納得がいき、
ペンを受け取る。

「ご記入頂いたら、
 左手側奥の部屋にどうぞ」

旅人に鍵を渡し、
部屋まで歩いて行くのを見送ると
青年はヨーナに向き直る。

「お帰りヨーナ。
 お迎えありがとう」

「こっちこそ、
 ソウシが手伝ってくれるから助かるわ」

「僕みたいなのを
 雇ってくれるのはヨーナの家ぐらいだから。
 もっと色々出来たら良いのだけど」

「何も出来ないみたいに言うけど、
 足音で何人来たか分かるって
 大した事よ」

ソウシと呼ばれた青年は杖をつきながらカウンターを出る。

「お茶を入れるから
 ヨーナも少し休憩しなよ」

手慣れていて
まるで見えているように、彼はカップを並べる。

ソウシの両目は
生まれつき、光を映さない。

そんな彼の後ろ姿を
ヨーナは眺める。

並べられたカップは三つ。

「……多くない?」
「多くない。
 ぴったりだよ」

もう1人分は誰の物だろうか、と
首を捻っているところに
裏口の扉が開く音がする。

「ほら、来た」

ソウシは笑う。

「おい、納品だ」

裏口に通じる扉から
同じ谷一族のケンが顔を出す。
裏口には押し車で運ばれた
食材が並んでいる。

「あらもうそんな時間。
 ちょっと待っていて、
 父さん達を呼んでくるわ」

ヨーナが奥に掛けていくのを見送ると
お茶を差し出しながら
ソウシはケンに声を掛ける。

「ミヤは、家?」
「子供が歩き始めたから
 更に目が話せなくなってきてな」
「え?もうそんなに大きくなったの」
「一歳と半年」
「わ~、
 この前生まれたばかりだと
 思っていたのに」

早いなぁ、と感心するソウシに
おいおい、とケンが呆れて言う。

「人の事言う前に。
 お前、ヨーナの事どうするんだよ。
 そろそろ結婚するかどうか決めてやれよ」

ううん、と
苦笑しながらソウシは
見えないながらもその目を伏せる。

「そうは言うけど
 僕の目じゃ、仕事の手伝いは出来ても
 養うことは難しいだろ」

「そこも踏まえて話付けろって言ってんの」

ケンは、
あえて大きくため息をつく。


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