「おい!」
呼ばれて、辰樹は振り返る。
「おい! 辰樹!」
「ああ、うん。陸院か」
「おいおいおい。何だよ、それ」
「いや。お前に興味ないし」
「相変わらず腹立つな、お前!」
辰樹は、横に立つ木を見上げる。
ついこの前まで、小さい葉だったのに、
木々には、ずいぶんと葉が広がっている。
つぼみも、付いている。
「はあ……」
辰樹のため息に、陸院は目を細める。
「感傷的になっているのか?」
「別にー」
「気持ち悪いぞ、辰樹」
「関係ないだろ」
辰樹は歩き出す。
「おい、待てって!」
「うーん」
「待てってば!」
陸院は慌てる。
「今度の務めの話だよ!」
「務めー?」
「俺とお前で、務め!」
「えー。陸院となら、やだー」
「うわぁあああ」
辰樹の率直な言葉に、陸院は落ち込む。
「だって、陸院とはやりにくいし」
「茶化してるのか?」
「茶化してるわけじゃない」
辰樹は云う。
「事実だ!」
「ぉおおおおお」
陸院は、ますます落ち込む。
「落ち込む俺を何とかしてくれ!」
「何だよ、お前」
「落ち込む俺を!」
「うるさいな、判ったよ!」
辰樹も面倒くさくなって、頭を抱える。
「それで、」
辰樹は陸院の肩を叩く。
「今度の務めは何だ?」
「……辰樹」
「迷い犬の探索か?」
「…………!!」
「それとも、今期の苗を植えるのか??」
「…………!!?」
「お前との務めはそんなもんだと俺は思っている!」
「辰樹ぃいい!!」
陸院が本気で怒り出したので、辰樹は走り出す。
走って
走って
走れるだけ走って、
やがて、村の高台へとたどり着く。
ここからは、水辺の方まで見渡せる。
以前、西と争っていた頃の、見張り台の名残り。
「ふう」
大きく息を吐いて、辰樹は坐り込む。
風が吹く。
花びらが舞う。
音。
何かの、音。
……足音?
「……あれ」
辰樹は、その方向を見る。
「辰樹、今度の務めの話だけど」
それは、先ほども聞いた言葉。
けれども、これは、陸院の声ではない。
辰樹は目をこらす。
「え? え、え??」
そこに、
「天樹!?」
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