TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「ヨーナとソウシ」5

2016年10月25日 | T.B.1998年

「ヨーナ、どうしたの。
 なんだか楽しそうだね」

宿泊客を全て出迎え、
彼らを部屋に案内した後、
ソウシは尋ねる。

「そう、かしら」
「そうだよ。
 もし僕の事なら無理はしないで」
「………」
「………」
「あ、そうだった」
「えぇえ!!?」

そもそも、
ソウシを北一族の市場に連れて行く、行かない、
そういう話で揉めて宿を出たのだった。

宿番として、残っていたソウシには
その事で何かあるのだと思うのは当然だ。

「えええ!!?
 完全に僕の関係だと、えええ。
 あ、いや、いいんだ忘れて」
「違うの!!
 その事は解決したから。
 北一族の村にはみんなで行く、それで決定」

ごめんってば、と
ヨーナはソウシの手を握る。

「冗談だよ。
 いつもありがと、ヨーナ」

で、と
ソウシはその続きを促す。

「何か良いことあった?」

「実はね、
 私、三つ目様と話したのよ」

言いながらも、自分が浮かれるほど
珍しい事では無いかもしれない、と
ヨーナは少し声が小さくなる。

他の一族の出入りが多いこちら側の集落に
彼らは顔を出すことが少ない、

が、

ケンやソウシの家がある
村の集落地帯では
案外当たり前の事なのかもしれない。

「良かったじゃないか。
 祝福はして貰えた?」

神に近い存在とされる彼らは
司祭の立ち位置に居る。

「それが、司祭様じゃないの。
 まだ、若い。
 えっと、ヨ……ヨシュウ、じゃなくて」
「ヨシヤ様。
 司祭の息子さんだ」

「ケンは知り合いだったみたいだけど。
 もしかして、ソウシもそうなの」

「いや、全く」

「ケンは顔が広いからね。
 普通に話してたから驚いちゃった」
「あいつらしいなぁ。
 怖い物知らずというか」

そうね、と
笑ってヨーナは言う。

「こちら側に興味があったみたい。
 危ないからって、
 ケンがそのまま送って行ってた」
「まさか、一人で?」
「そう、危ないでしょう。
 お忍びっていってたわ。
 奥様に贈り物したいって」

「……マルタ様、か」

「だから、
 私が代わりに珍しい物を探そうかと思って」
「引き受けちゃったんだ?」

あんまりあれこれと
引き受けちゃダメだ、と
ソウシがヨーナをたしなめる。

「ヨーナはそうやって
 すぐに手一杯になるのだから」
「……気をつけるわ。
 でも、これはもう約束したから」

仕方ない、と
ソウシが珍しく不満気なため息をつく。

「ねぇ、ヨーナ。
 ヨシヤ様の奥様は
 二つ目の人、らしいよ」

「三つ目に嫁ぐってどんな気持ちかしら」

「ヨーナだったらどうする。
 同じ女性としては」

ソウシは見えないはずの視線を
ヨーナに向ける。
本当に見ているように視線を感じる。

そういう時は決まって
ソウシが何か大事な事を尋ねる時。
きちんと考えて答えないといけない時。


「そうね、私なら」



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