TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「ヨーナとソウシ」3

2016年10月11日 | T.B.1998年

納品を終えたケンを見ながら
あら、と
ヨーナが声を掛ける。

「ケン、その耳飾りおしゃれね
 どうしたの?」

良く気付いたと言わんばかりに
ケンは答える。

「良いだろ、
 北一族の村の市場で見つけたんだ。
 西一族の工芸品だな」

その耳飾りは鳥の羽で作られている。

「さすが、北一族の村は
 何でもあるのね。
 行ってみたいわ」

商人が集まる北一族の市場は
八つの一族全ての品が揃うと言われている。

ケンの家は卸業を営んでおり
谷一族の産物である鉱石の加工物を運び
野菜や肉など食料品を仕入れて帰ってくる。

「まぁ、人が集まる分
 物騒ではあるけどな」

「気をつけなよ、ケン」

ソウシも心配して声を掛ける。

「大丈夫だって
 とりあえずは砂一族に気をつけておけば
 なんとかなる」

「砂一族」

谷一族の村からは
長い荒野と砂漠を挟んだ土地に暮らしている
好戦的で、
危険な魔法と毒薬を使う一族。

「敵対しているのは
 隣接している東一族と、だろう」

危険だと言うが
必要以上に関わらなければ
問題は無いはずだ。

「でも、砂一族の薬は
 良く効くのよね」

毒薬に通じていると言うことは
良薬も同様。
砂一族の薬はとても重宝される。

「まぁ、宿がお休みの日とかに
 揃って出かけるのも良いな。
 ヨーナ、ウチの子の面倒見てくれるだろ」
「いいわよ。
 四人で見ながら行ったら
 ミヤも少しは息抜きになるかしら」
「四人ってヨーナ、まさか僕も入ってる」
「そうよ」
「げぇ……ソウシも行くのか」

ケンの反応に
ヨーナは少しむっとして答える。

「当たり前よ。
 なんなら私が両手でソウシとミィチカちゃんの
 手を引いて行くわよ」

「いや、こいつが
 ちゃんと歩けるのは知ってるけど」
「ヨーナ、良いんだよ。
 僕が行くと面倒になるし、
 三人で行っておいで」

「行くったら、行くのよ!!」

それで決まりだからね、と
ヨーナは立ち上がる。

「次のお客さんが
 来る頃だから
 お迎え行ってくる」

「いってらっしゃい」

と、いつもと変わらず見送る
ソウシの声を聞きながら
いつもより少し強めにドアを閉める。

ケンは、
ヨーナがソウシと知り合うよりも
もっと前からの幼なじみだ。

ソウシの目の事を気にせず
いつも手助けをしているし
遠慮のない物言いもする。

そんなケンが
ソウシの事を渋るというのは
少し珍しい。

「まぁ、
 確かに北の市場は人が多くて
 危ないかもしれないけど」

「だから、危ないんだよ」

急に後ろから聞こえた声に
ヨーナは驚いて
躓きそうになる。

「ちょっ、ケン居たの?!」

「いたよ、納品終えたし、帰んなきゃ」

「ふーん」

暫く二人は並んで歩く。

「………」
「………」
「………」
「………あのさぁ」

気まずそうにケンは言う。

「ソウシの前で
 揃って出かけるなんて話した俺も悪かったけど
 あいつをあんまり外の人間が多いところに
 連れ出すのもな」
「分かっている」

「まぁ、あいつも
 自分で選んだ方が良いだろうし」

ぶつぶつとケンが言う。

「実際俺も
 連れてってやりたいんだよな。
 ちょっと考えてみるか」

ヨーナがいくら頑張ると言っても
何かあったときに
負担を掛けるのはケンになる。

自分がムキになりすぎた、と
ヨーナは反省する。

「ケン、ありがと」

「気にするなって。
 じゃあ、俺こっちだから」

村の入り口に向かうヨーナに対して
村の奥に向かおうとするケンは
分かれ道で挨拶を交わす。

宿や、店は村の入り口に近いところに位置し、
村人が暮らす集落は
少し入り組んだ洞窟の奥にある。

「ん?」

ケンがその分かれ道付近に居る人を見かけて
ん?と首を捻る。

「三つ目様じゃないか」



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「涼と誠治」11

2016年10月07日 | T.B.2019年

「誠治、とか云ったな」

 馬に乗ったまま、山一族は誠治を見る。

「ああ、なるほど」
 山一族は頷く。
「お前のことも知ってるよ」

 山一族は、弓で誠治を差す。

「狩りが上手いんだってな」

「なぜ、知ってる!」

「知ってるよ」

 山一族は笑う。

「秘密と云うのは、お互い知ってるものなんだよ」
「何だって?」
「知らないのは、若造だけだ」

 山一族は、紙を取り出し、丸める。

「情報交換するなら、黒髪じゃなく、」

 誠治。

「お前の方だってことも、俺は判るさ」

 山一族は、丸めた紙を放る。

 その紙は、誠治の前に転がる。

「お前っ!」
「その手紙は、誠治。お前宛てだ」

 山一族が、再度笑う。

「ほかの誰にも見せるな」
「何なんだよ!」

「黒髪」

 山一族は、涼を見る。

「余計なことは云うな。お前、頭よさそうだから判るよな」

 涼は、誠治を見る。

 誠治は、足下を見ている。

 そこに転がる、手紙を。

「誠治」

 涼が声を出す。

「どうする?」
「どう、するって」

「捕らえるか?」

 それとも

「殺すか?」

 誠治は、思わず涼を見る。
 その額には、汗が伝う。

「どうしたらいいか、指示を出せ」

 涼が云う。

「お前の指示に従う」
「涼、」
「相手はひとりだ。たいしたことない」

 涼は、刀を握る。

「へえ」

 山一族は馬に乗ったまま。
 涼と誠治を見下ろす。

「まだ、西一族にもいるんだな」
 山一族が云う。
「そうやって、他一族と戦えるやつが」

 誰も、

 動かない。

 音もしない。

 風が、吹く。

 と、

「涼!」

 山一族が動こうとしたのに気付き、
 それより先に、誠治は声を上げる。

「退こう」
「誠治」
「すぐに、退こう」

 涼は誠治を見る。

「俺たちが勝手に動けることじゃない」
「…………」
「……な?」
「そうか」

 涼が云う。

「判った」



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「ヨーナとソウシ」2

2016年10月04日 | T.B.1998年

「いらっしゃいませ」

受付にいた青年が立ち上がる。

「お二人様ですね。
 それでは、こちらのお宿帳にお名前を」

ペンを受け取った旅人は
青年の様子に首を傾げるが
すぐに納得がいき、
ペンを受け取る。

「ご記入頂いたら、
 左手側奥の部屋にどうぞ」

旅人に鍵を渡し、
部屋まで歩いて行くのを見送ると
青年はヨーナに向き直る。

「お帰りヨーナ。
 お迎えありがとう」

「こっちこそ、
 ソウシが手伝ってくれるから助かるわ」

「僕みたいなのを
 雇ってくれるのはヨーナの家ぐらいだから。
 もっと色々出来たら良いのだけど」

「何も出来ないみたいに言うけど、
 足音で何人来たか分かるって
 大した事よ」

ソウシと呼ばれた青年は杖をつきながらカウンターを出る。

「お茶を入れるから
 ヨーナも少し休憩しなよ」

手慣れていて
まるで見えているように、彼はカップを並べる。

ソウシの両目は
生まれつき、光を映さない。

そんな彼の後ろ姿を
ヨーナは眺める。

並べられたカップは三つ。

「……多くない?」
「多くない。
 ぴったりだよ」

もう1人分は誰の物だろうか、と
首を捻っているところに
裏口の扉が開く音がする。

「ほら、来た」

ソウシは笑う。

「おい、納品だ」

裏口に通じる扉から
同じ谷一族のケンが顔を出す。
裏口には押し車で運ばれた
食材が並んでいる。

「あらもうそんな時間。
 ちょっと待っていて、
 父さん達を呼んでくるわ」

ヨーナが奥に掛けていくのを見送ると
お茶を差し出しながら
ソウシはケンに声を掛ける。

「ミヤは、家?」
「子供が歩き始めたから
 更に目が話せなくなってきてな」
「え?もうそんなに大きくなったの」
「一歳と半年」
「わ~、
 この前生まれたばかりだと
 思っていたのに」

早いなぁ、と感心するソウシに
おいおい、とケンが呆れて言う。

「人の事言う前に。
 お前、ヨーナの事どうするんだよ。
 そろそろ結婚するかどうか決めてやれよ」

ううん、と
苦笑しながらソウシは
見えないながらもその目を伏せる。

「そうは言うけど
 僕の目じゃ、仕事の手伝いは出来ても
 養うことは難しいだろ」

「そこも踏まえて話付けろって言ってんの」

ケンは、
あえて大きくため息をつく。


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