綿花を運ぶ未央子を見つけ、辰樹は声をかける。
「未央子ぉ! 精が出るなー!!」
「ああ、声が大きい人がいるわ」
「屋敷に運ぶのか!!」
「そうだけど……、あんた、声量を落としてよ」
「ほらほら、持つって!」
辰樹は未央子から綿花のかごを奪いとる。
「ありがとう」
「なあなあ。結婚するんだって!」
「えっ。突然そんな話!?」
辰樹は構わず話し続ける。
「天樹がな、結婚するんだって!!」
「それは、おめでとう……って、誰だっけ、その子」
「俺も早く成人したいなー!!」
「成人したところで辰樹は変わらないわよ、きっと」
「非道いな、従姉さん!」
「結婚って云えば、そう」
未央子は、ふと思い出す。
「ほら、私の友だちの子もね、違う装飾品を付けていたのよ」
「おお。目が悪い子か」
「うふふ」
未央子は、口元に手をやる。
「そもそも。自分の装飾品をなくしたらしいの」
「それは、一大事!」
「と、思ったら、違う装飾品を付けていたのよ!」
「おお?」
「つまり、誰かからもらったと云うことでしょ!?」
「お、おお??」
「私が思うに、男の人からもらったのよ!」
「おお!」
辰樹は、状況を飲み込む。
「結婚するのか!」
「きっと、天院(てんいん)様からもらったんだわ!!」
「えっ。それ誰!?」
「何でそこでつまづくのよ!」
未央子は、辰樹を腹打ちだ。
「ああ。周りは仕合わせだらけねー」
と、云いながらも、未央子は嬉しそうだ。
「うーん」
辰樹は片手でお腹をさする。
「陸院が余ってるんじゃないのか」
「ん?」
「未央子には、陸院が余っているんじゃないか?」
「んん?」
「だから、未央子には陸院が」
「それ、どう云う意味よ!!」
未央子は声を大にして云う。
「ほかにももっといるでしょうがっ!!」
「顔が真っ赤だ、未央子!」
未央子は、辰樹の持つ綿花のかごをとる。
「もう、先に行くからね!」
「怒っているのか、未央子!」
ふたりで、いろいろ声がでかい。
早歩きの未央子に、辰樹は後から声をかける。。
「従姉さん従姉さん! 俺はな!」
「何よ!」
「年下がいいな!」
「どうでもいいわ!!」
辰樹は笑う。
「未央子!」
「何!?」
「俺たち、こいばなしてるな!!」
「…………」
「こいばな!!」
「……ええ」
未央子は、ちょっと鳥肌が立った。
未央子は、立ち止まり空を見上げる。
辰樹も空を見る。
「雲が多くなってきたわね」
「これから、雨の降る時期に入るし」
「そうね」
「雨で気が滅入る前に、おもしろい話が出来てよかった」
「あんたでも、気が滅入ることあるの?」
辰樹は笑う。
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