TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「ヨーナとソウシ」4

2016年10月18日 | T.B.1998年

「……本当だわ」

谷一族のごく限られた血筋に
まれに生まれてくる三つ目の者。

両目ともうひとつ、
額に位置する目。

一族の額の入れ墨の由来となった物。

水辺の八つの一族に
それぞれ特徴はあるが、
瞳が三つというのは谷一族にしか存在しない。

だから、村人は
その存在自体を秘密にすることで
稀有なその存在を村全体で守っている。

「ヨシヤ、どうしたんだこんな所で。
 ここから先は、
 他の村の奴らの出入りが多い」

「あぁ、お前」

その三つ目の青年は、
ケンに気が付き、問いかけに答える。

「たまには俺も、
 こちら側に足を運びたい」
「そうは言っても、1人か?」
「お忍びだよ」
「全然忍べて無いじゃないか」

へぇ、と
ヨーナは感心する。

三つ目は、今、十数人存在するらしい。
彼らは、大切に守られ、
神官に近い立ち位置にいる。

その立場や貴重な存在という事で
ヨーナや
ほとんどの村人にとっては
雲の上の存在に近い。

ケンは確かに
仕事柄あちこちの家に出入りしている。
時にはヨーナが驚くような人と
知り合いだったりする。

暫くケンと話していた
三つ目の青年がヨーナに気が付く。

「ケン、お前の奥さんか?」
「違う。
 ……宿屋の跡取り娘だ」

急に自分に話が降られて
ヨーナは軽く頭を下げる。

「宿屋のヨーナと言います」

「そう、君が」

三つ目の青年は
ヨーナに歩み寄る。

「そうかしこまらないで。
 俺はヨシヤ。
 普通に話して構わないよ」

歳も近いようだし。と
ヨシヤと言う三つ目の青年は言う。

「こちら側にはあまり来ないから
 宿屋や店を眺めてみたいのだけれど」

こちら、とヨシヤが言うのは
村の入り口付近の集落の事。
ヨーナの宿屋や、観光客向けの店が並ぶ。

他一族の出入りが多いので、
三つ目の者は
あまり立ち入ることが無い。

「だから、そう言うのが迂闊なんだって」

彼が動くときに揺れる前髪の隙間から
覗く三つ目の目が
ヨーナを見つめる。

「宿屋のお客さんってのは
 他一族の人がほとんどだろう」
「ええ」
「彼らは自分の村の特産品を
 持ってきていたりするのかな」
「そういう人が多いですね。
 鉱物の取引に来る人達ですから」

市場よりも幾分安く手に入ると、
足を運ぶ商人も多い。
交換の品の見本として
色々な物を持ってくる。

「ほら、
 物珍しい物でも見たら
 気が紛れるんじゃないかな、と思って」

あぁ、と
ヨーナは合点が行く。

歳が近い、ヨシヤという名前。

かかわりは浅くとも
三つ目様の事は
色々と聞こえてくる。

生まれたばかりの子供が亡くなって、
奥方は寝込んでいる、と。

ヨシヤはそんな妻に
何か贈り物をしたいのだろう。

「何か、聞いてみる事ならできます」

ヨーナは答える。

「そうか、ありがとう」

助かるよ、とヨシヤは答え、
ヨーナに言う。

「君は僕の奥さんに
 少し雰囲気が似ているなぁ」

えぇえ、と
ケンはうんざりした声をあげる。

「全然違うって。
 どこ見てるんだ、ヨシヤ」


NEXT


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。