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「涼と誠治」13

2017年03月03日 | T.B.2019年

 家に戻ると、彼は、中を見渡す。

 以前まで暮らしていた村長の家ではない。
 ここ最近、暮らしはじめた、別の家。

 中には、誰もいない。

 彼は、持っていた弓と刀を置く。
 近くの椅子に、腰掛ける。

 部屋の中を見る。

 壁には肖像画。

 この家には、もともと4人家族が暮らしていたらしい。

 けれども、

 ひとりは、病院で寝泊まりし、
 ふたりは、西を出て、南で暮らしている。

 そして、

 残されたひとり。

 も、今は見当たらない。
 もしかしたら、
 そのひとりも、ついに、家を出て行ったのかもしれない。

 そう。

 彼の結婚相手。

 部屋の隅の棚には、見慣れないものが並ぶ。

 谷一族の鉱石。
 南一族の工芸品。
 東一族の刺繍布。

 どれも、西一族では見られないもの。

 と、

 彼は、背中を押さえる。

 背中が痛む。
 腕も痛む。

 昔、誰にだったか。背中に刀を差されたのが原因だった。
 神経が効かなくなる位置に、その傷は残っている。

 彼は、腕に巻かれた包帯を見る。

 怪我の治療用ではない。
 完治はしているが、傷痕を隠すために、包帯を巻いている。

 その包帯を取り、自身の腕を見る。

 そこに、規則的な模様が描かれている。

 彼の実の父親が、この模様を描いた。
 最初の頃より、ずいぶんと模様は広がっている。

 痛みが治まると、彼は再度包帯を巻く。

 椅子に坐ったまま、目を閉じる。

 しばらく、そうしている。

 夜が明け、

 彼は、立ち上がり、外の様子を見る。
 村は静かだ。

 家の扉を見る。

 誰もやって来ない。
 帰って来ない。

 彼は、家の中で待つ。

 しばらく食べなくても、何てことはない。
 そんな日々を送っていたことがあるから。

 彼は、ただ待つ。

 日が落ち
 また、昇る。

 たぶん、何日か経ったのだ。

 村が騒がしい。

 彼は、相変わらず、椅子に坐ったまま。
 家の扉を見る。

 そろそろ来る頃だ。

 涼は、そう思う。



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