「鹿を捕らえたのか」
西一族の村に入ってすぐ。
通りがかった村長が、涼と誠治に気付く。
「さすが、誠治は血抜きが上手いな」
村長は獲物を見て、頷く。
これなら、何家族も分配が出来る、と。
「どうした?」
何か、ふたりの違和感に気付き、村長は誠治を見る。
「何か、あったのか?」
誠治が目をそらしたので、村長は涼を見る。
涼は、誠治を見る。
誠治は、誰とも目を合わさない。
「何も」
涼が答える。
「別に、何も」
「そうか」
村長は、再度、誠治を見る。
「広場にはまだ、道具が出ているはずだ」
「……ああ」
「獲物を捌く人数も足りるだろう」
「判った」
村長に云われ、誠治は獲物を抱えなおす。
涼を、ちらりと見る。
歩き出す。
その後ろ姿を見送ると、村長は口開く。
「狩りで、何があった?」
「別に」
「山に会ったんだな?」
「…………」
「山と、何を話した?」
涼は答えない。
村長は息を吐く。
「お前。まさか、何かしたわけじゃないだろうな?」
涼は首を振る。
「何も」
「余計なことはするなよ」
村長が云う。
「山ともめごと起こしても、何もならん」
涼が訊く。
「もし、誠治の身に危険が及んだら?」
「それは、」
「俺は、誠治を守らなければならない」
「何だ」
村長が云う。
「お前、仲間意識はあるのか」
涼は答えない。
「誰が、お前にそうしろと云った?」
涼が云う。
「仲間は必ず守れと」
「誰が?」
「…………」
「お前の父親か?」
「…………」
「立派な父親だな」
村長は、涼を見る。
けれども、涼と目は合わない。
「誠治をよく見てろ」
その言葉に、涼は目を細める。
「山と接触しないように、見張れと云うことだ」
「それは、」
「それと、山一族のことは誰にも云うな」
「…………」
「同じことを、山一族にも云われたか?」
村長は、鼻で笑う。
「まあ、とにかく家に帰れ。今日の狩りはおしまいだ」
涼は村長を見る。
「俺は、お前のことは信用している」
云いながら、村長は涼の肩を叩く。
「お前の力のこともだ。西一族のために使ってくれる、とな」
涼は、村長の手を振り払う。
歩き出す。
「悪いな」
後ろで、村長がそう呟く。
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