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「山一族と規子」3

2015年09月01日 | T.B.1962年

「さて、まずい事になったけど
 どうしましょうか」

山一族の村を案内した帰り、
規子が唸る様に言う。

「何が??」

状況をよく理解していない青年に
規子はしばらく沈黙する。

「あなた、今
 私の浮気相手候補よ」

「は?」

「だから、あなた
 巻き込まれちゃっているのよ」
「おいおい
 西一族は手を繋いだだけで浮気なるのか」
「ならないわよ」

もう、じれったい、と
規子は言う。

「あの子の策略にはめられたのよ。
 だからわざわざ村を案内しろって言ったの」

「あの子」が誰だか
ぴんと来ないままの青年に
規子は続ける。

「2人で人通りの少ない所に消えてったなんて
 良い噂の種じゃない
 だから、まずいって言っているのよ」

「おい、ちょっと待て」

あの子は、つまり、族長の三番目の孫。
規子の夫だ。

「何?」

「なんだ、それ
 何でそんな噂を流したがるんだ??」

嫌だろう、普通。そんなの。

「だって、
 私が妻だと困るんだもの」

「―――そういう事か」

青年はやっと納得がいく。

村に来て半年にもなるのに
わざわざ村を案内させた事。
そして、だれか使いの女性にさせれば済むことを
青年に指名した事。

「あなたが立場的に言えないと言った様に
 あの子だって断れなかったのよ、この婚姻話」

あの子、再びそう言った規子を見て
この2人は夫婦ではないのだと、
青年は思う。

彼女の旦那である族長の三番目の孫は
確か規子より3つ年下だ。
それでも、今はまだ若いかもしれないけど
いつか夫婦として過ごしていくのだと思っていたが。

「気になる子が居るみたい。
 きちんと迎えたいのよ。その子の事」

いいなぁ。と彼女は言った。

「ステキよね」

「お前こそ、
 少しは無茶を言えばいいのに」

当たり前の様に言う青年に
そうね、と規子は笑う。

「無茶を言える人が出来たらね」


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