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「山一族と規子」2

2015年08月25日 | T.B.1962年

「ここが集会所です」
「ええ」
「こちらが族長―――フタミ様のお家」
「知っているわ」

村の大通りを通るのだから
もちろん村人の視線も感じる。

お孫様に嫁いだ西一族、
それにあまり姿を見せないというだけで
村人の視線は自然と集まる。

集まるが
立場や他一族な事もあって
皆遠巻きに見ている。

それに加えて

「村唯一の病院はあちらになります」

「そう」

立場上青年も敬語になるが
彼女のこの態度も無いだろう、と
思う。

大体、村の目立つ所を歩け、というのも
少し失礼じゃないか
自分は何か彼女にしようという訳でもないのに。

「ねぇ」

飽きたとばかりに彼女が声をかける。

「もういいでしょう
 私帰るわ」

「……はぁ?」

そこで青年のふつふつとしていた物が
沸き上がってきて、思わず敬語を忘れてしまう。

「おい、確か規子、だったな」

青年は彼女―――規子の腕を引く。

「ちょっと、ねぇ」

「もう一つ、ある、
 こっちだ!!!」

青年は村の大通りを抜けて細い小道に入る。

「ねぇ、まずいわ、ねぇ。
 それに名前、いつ知ったのよ」
「名前は呼ばれていたのを聞いていたから知っている
 何もしないから、とりあえずついて来い」
「だから、そうじゃなくて」

村のはずれまで来て
青年はやっと規子の手を離す。
そこには沢山の鳥が居る。

「お前が嫁いだフタミの家は
 族長を務める以外にも
 鳥を操る家系だと聞いただろう?」

それが、この鳥たちだ、と
青年は言う。

「ウチの一族は狩りを行う。
 と、同時に動物を操る事にも長けている」

「へぇ」

規子はその沢山の鳥たちに少し驚いている様だ。

「凄い数。これがそうなのね」

と、言うことは
彼女はここには来たことが無い。
知らないということだ。

誰か鳥を飛ばすところでも見せられたら良かったのに
生憎、見張りが1人も居ない。
ちょうど席を外している様だ。

「そういえば、あなた馬に乗っていたものね。
 あなたもフタミの者なの?」
「俺は違う。
 馬は得意だけど鳥は操れない。
 狩りは自信があるけどな」

そう言えば、と
青年は言う。

「狩りなんて久しく出ていないのじゃないのか?
 ウチは西一族ほど女性が狩りには出ないからな」

「そうね、あちこちを走り回ることもなくなっちゃって。
 狩りなんて、今は前ほど動けないかもしれない」

西一族は男女問わず狩りに出る。

「私は狩りの腕だけが自慢だったのに」

ぽつりと規子が言う。

青年は
それならば、今度狩りに行こう、と
気安く誘える立場ではなかった。

だから黙って彼女の言葉を聞いていた。


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