「あっついなー」
雨の時期も終わり、気温が上がる時期に入る。
日差しも強い。
「とりあえず、風呂行くか!」
「何で!?」
天樹は、あまりの予想外に驚く。
「何で! 辰樹、何で!?」
「急に、お風呂の気分だからー」
「この前も、云っていたよね!?」
東一族は、公衆浴場。
ほとんどの家に、風呂はない。
「行かないし!」
「天樹と風呂で会ったことがないじゃん」
「行かないし!」
「入りに行こうぜー!」
「行、か、ないし!!」
「何恥ずかしがってんだ。お前は女子か!」
「女子でも何でも、とにかく行かない!」
「お風呂で、天樹といろいろお話ししたい!」
「女子はお前だ!」
辰樹が手を伸ばしたので、天樹は身を引く。
「おいおい。動揺しすぎだろ」
「待ってるから、行ってこいよ」
「兄さんー、付き合い悪いよー」
「いいよ、悪くて」
「その付き合いの悪さで、お前、同じ一族でも知らない人扱いだぞ」
「何が?」
「他のやつらに云っても、みんな、お前のこと知らないんだから」
辰樹が云う。
「あぁ、顔は見たことあるけど、名まえ何? どこの家の子? みたいな!」
「それで、結構」
「俺が紹介するよ。きっと仲良くなれる!」
天樹は首を振る。
「いいって」
「宗主の息子にいじめられても、仲間がいれば、対抗出来る!」
「平気だし。てか、いじめられてないし」
「仲間を作ろう!」
辰樹は、天樹の腕を掴む。
「あ、ちょっ!」
「行こう!」
「行かないから!」
「なら、入り口まで来てくれよー」
辰樹は、天樹のいっこ下だが、背が高く体格もいい。
反面、天樹は、小柄でやせ形だ。
辰樹は、ずるずると天樹を引きずる。
「辰樹!」
人通りの多い市場に差しかかるところで、天樹は身体をねじる。
辰樹を振り払う。
「ここまででいいだろ」
「天樹ぃ」
「ここで、待ってるから」
「えー」
ふと呼ばれて、辰樹は振り返る。
同世代の子たちがいる。
彼らも、公衆浴場に行くのだろう。
「あー。待って」
辰樹は、天樹を見る。
「こいつも一緒に」
が
そこに、天樹はいない。
「……あれ?」
辰樹は慌てて、天樹を探す。
「あれ? あれあれ?」
同世代の子たちは、辰樹を見て、首を傾げる。
辰樹の肩を叩き、公衆浴場へと歩きを促す。
「天樹ぃー! 天樹ぃい!」
騒がしくも、辰樹は公衆浴場へと入っていく。
しばらくして。
辰樹は、天樹と別れた場所へと戻ってくる。
天樹を探す。
人通りのないところに、天樹がいた。
「天樹!」
辰樹は、天樹に駆け寄る。
「嘘ついたな!」
「ついてないよ」
「待ってると云ったのに、いなくなったじゃないか」
「いたよ」
天樹は、空を指差す。
「木の上にね」
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