TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と規子」1

2015年08月18日 | T.B.1962年

「ウチの嫁に
 村を案内して欲しい」

「………はぁ」

青年は頷きながら首をひねる。

「村を、ですか」

「そうだ、僕は忙しいから
 そういう時間が取れなくて」

「でも、お孫様」
「その呼び方は止めろ」
「すみません
 あの、……やっぱりいいです」
「そうか、じゃあ、後は頼んだぞ」

そう言って部屋を出たのは
族長の―――フタミの者。
しかも現在の族長の3番目の孫になるのだから
当然、一族の中では地位が高い。

彼からの命令とあらば
よほどの事が無ければ頷いて従う物だ。

青年が頼まれた事は
何も難しい事では無い。
簡単に済むことだろうが
だからこそ、なぜ自分になのか、と

青年はそれが分からない。

だが引き受けたからには
やり遂げなければ終わらない。
意味を考えるのはそれからでも良いだろう。

青年は屋敷の中を進む。

「お孫様の嫁さんねぇ」

最期に見たのは
この村に嫁いできた時だろうか。
協定の証として来た彼女のために
村ではささやかな祝いの席が設けられた。

その時
お披露目として姿を現した彼女を
青年は遠くの席から見ていた。

彼は目的の部屋の前で止まり
扉の前で声を掛ける。

「奥様、お迎えに来ました」

しばらくして、扉が開く。

「何ですか?」

彼女が直接出てきたのを見て
青年は少し驚く。
1人ぐらいは仕える者が居るかと思っていたからだ。
彼女が1人、と知って彼は少し口調を崩す。

「よう、西一族」

青年の一族―――山一族と
狩り場を巡って対立する西一族。

一定の領土を線引きをして
そこからはお互いに立ち入らない。
その協定の証としてやって来たのが彼女だ。

「あなた、なんで」

「村の案内に、聞いてないのか?」
「案内?」
「お孫様、っと、お前の旦那から」
「そう」

さぁ、行こう、と
彼は入り口の方を指し示す。

だが、

「行かない」

彼女は部屋を出ようとしない。

「村は最初に来た時
 案内して貰ったもの
 今さら見て回っても仕方ないわ」
「……だよなぁ」

青年の疑問はそれだった。
なぜ、今なのか。
彼女がこの村に嫁いでからもう半年になる。
案内も何も無いだろう。

「私は行かない。
 そう言ったと彼に伝えれば良いわ」
「そりゃそうだけど」
「……言えないの?」
「立場的にちょっと難しいかな」

彼女はため息をつく。

「分かった。
 でも、少しだけ。
 村の一番目立つところを歩いて」

「……いいけど」

彼女は羽織を手に取る。
山一族の衣装の一つだ。
以前見かけた彼女は西一族の衣装を着ていた。

こうしてみれば、すっかり山一族のようだ、と
青年は思う。

元々隣り合う狩りの一族、
生活習慣も似た所が多い。
外見もそう大きくは変わらない。同じ白色系の髪。

唯一違うのは瞳の色。
山一族は基本的に金色の瞳を持つ。

彼女の瞳は薄い茶色だ。
光の具合によっては赤い色にも見える。

「準備できたわ。
 ―――何?」


「いや、何でもない。
 行こうか」


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「山一族」

2015年08月18日 | イラスト


に、なった彼女
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