TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」4

2015年08月11日 | T.B.1998年

トーマは山に足を踏み入れる。
山といっても
海一族の集落からそう遠くない、
まだ、海一族の土地だと言える範囲の場所。

山一族が暮らす土地は
これより遠く離れているという。

トーマが採っているのは
魚料理に使うと臭みを消す
今の時期にだけ生える香草だ。

「雲が出てきたな」

雨はいつも山から下りてくる。
早く終わらせなくては、と
雲行きを見つめる。

雨が降り始めると
山全体が鬱そうとした雰囲気になる。

最近はそれが
気持ちの悪い物の様に思えて
早くここから出なくてはという気分になる。

「トーマ」
「うわっ!!」

妙な事を考えていたときに声を掛けられ
トーマは思わず声を上げる。

「なんだおい、情けないな
 こんな事で驚くな」

長の補佐を務めるミツグは
逆にトーマの声に驚いたらしい。

「ミツグさんか、
 脅かすのは止めてくれよ」
「脅かしたつもりはないし
 こんな所まで探しに来たんだ
 感謝されても良いくらいだ」
「何だ、用事ならば
 言付けてくれたらこちらから行ったのに」

わざわざこんな所まで。
山の入り口で、場所の目星は付いているとは言え
手間のかかることだ。

「山の様子を見て回るのも
 俺の仕事だしな」

ついでだ、とミツグは言う。

「そして、こんな所でしか
 伝えられない用事だ」

ミツグの言葉にトーマは改めてミツグに向き直る。

「山一族から知らせが来た、
 そろそろ、時期だ。
 心構えだけしておくように」

チヒロが言っていた。
山一族からの鳥の知らせ。
トーマは分かった、と頷く。

「まぁ、そう気を張ることじゃない」

先に降りるぞ、と
ミツグは山を下っていく。

「気を張るなと言ってもなぁ」

しばらく考え込んでいたトーマだったが

「あ」

腕に水滴を感じて
空を見上げる。

「雨だ」

山から下りてきた雨雲が
海一族の土地にも雨粒を落とし始める。


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