TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」6

2015年08月21日 | T.B.2016年

「あっついなー」

 雨の時期も終わり、気温が上がる時期に入る。
 日差しも強い。

「とりあえず、風呂行くか!」
「何で!?」

 天樹は、あまりの予想外に驚く。

「何で! 辰樹、何で!?」
「急に、お風呂の気分だからー」
「この前も、云っていたよね!?」

 東一族は、公衆浴場。
 ほとんどの家に、風呂はない。

「行かないし!」
「天樹と風呂で会ったことがないじゃん」
「行かないし!」
「入りに行こうぜー!」
「行、か、ないし!!」
「何恥ずかしがってんだ。お前は女子か!」
「女子でも何でも、とにかく行かない!」
「お風呂で、天樹といろいろお話ししたい!」
「女子はお前だ!」

 辰樹が手を伸ばしたので、天樹は身を引く。

「おいおい。動揺しすぎだろ」
「待ってるから、行ってこいよ」
「兄さんー、付き合い悪いよー」
「いいよ、悪くて」

「その付き合いの悪さで、お前、同じ一族でも知らない人扱いだぞ」

「何が?」
「他のやつらに云っても、みんな、お前のこと知らないんだから」
 辰樹が云う。
「あぁ、顔は見たことあるけど、名まえ何? どこの家の子? みたいな!」
「それで、結構」
「俺が紹介するよ。きっと仲良くなれる!」
 天樹は首を振る。
「いいって」
「宗主の息子にいじめられても、仲間がいれば、対抗出来る!」
「平気だし。てか、いじめられてないし」
「仲間を作ろう!」

 辰樹は、天樹の腕を掴む。

「あ、ちょっ!」
「行こう!」
「行かないから!」
「なら、入り口まで来てくれよー」

 辰樹は、天樹のいっこ下だが、背が高く体格もいい。
 反面、天樹は、小柄でやせ形だ。

 辰樹は、ずるずると天樹を引きずる。

「辰樹!」

 人通りの多い市場に差しかかるところで、天樹は身体をねじる。
 辰樹を振り払う。

「ここまででいいだろ」
「天樹ぃ」
「ここで、待ってるから」
「えー」

 ふと呼ばれて、辰樹は振り返る。

 同世代の子たちがいる。
 彼らも、公衆浴場に行くのだろう。

「あー。待って」
 辰樹は、天樹を見る。
「こいつも一緒に」

 が

 そこに、天樹はいない。

「……あれ?」

 辰樹は慌てて、天樹を探す。

「あれ? あれあれ?」

 同世代の子たちは、辰樹を見て、首を傾げる。
 辰樹の肩を叩き、公衆浴場へと歩きを促す。

「天樹ぃー! 天樹ぃい!」

 騒がしくも、辰樹は公衆浴場へと入っていく。

 しばらくして。

 辰樹は、天樹と別れた場所へと戻ってくる。
 天樹を探す。

 人通りのないところに、天樹がいた。

「天樹!」

 辰樹は、天樹に駆け寄る。

「嘘ついたな!」
「ついてないよ」
「待ってると云ったのに、いなくなったじゃないか」
「いたよ」

 天樹は、空を指差す。

「木の上にね」



NEXT
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東一族の村にて

2015年08月21日 | イラスト





雨の降る時期
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする