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「辰樹と天樹」8

2015年09月04日 | T.B.2016年

「天樹! 川で泳げちゃう日和!」

「泳がないし」

 いやいや、と、辰樹は頷く。

「こんなに暑いのに、泳いでいられない!」
「辰樹」
「お天道様がにくいぜ!」

 辰樹は服を脱ぎ、川に入る。

「天樹、入らないのー」
「俺はいいよ」
「何でだよー」
「人と裸とか、嫌だ」
「お前、本当に女子だな!」

 天樹は、日陰に坐る。

 辰樹は泳ぎ出す。

「冷たくて、気持ちいいー」

 日差しは強い。

 流れに逆らうように、辰樹は泳ぐ。

 辰樹の横で、動物の親子も、水浴びをしている。

 辰樹は潜り、川の中を見る。
 魚が泳いでいる。

「天樹、魚だ!」
「へえ」
「たくさんいる!」
「あまり、驚かせるなよ」
「俺、飼おうかな!」
「やめろって」

 辰樹は泳ぐ。
 同じところを、何度も何度も。

 やがて

「あー楽しかった!」

 満足げに辰樹は、川から上がってくる。

 日陰に坐っている天樹の横に来ると、そのまま、寝転ぶ。

「寝られちゃう!」
「どうぞ」

 しばらく、どちらも話さない。

 風が吹く。

 緑が揺れる。

 空では、雲が流れている。

 やがて、天樹が口を開く。

「こんなこと云うの、何だけど」

「何ー?」

 辰樹は寝転がったまま、天樹を見る。

 天樹が云う。
「昔、川で溺れたことがあって」
「天樹が?」
「そう」
「……え? 天樹が!?」
「そうだって」
「いつだよ?」
「本当に、小さい頃」
「じゃあ、仕方ないな」

 辰樹が訊く。

「それで、川で何していたんだよ?」
「覚えてない」
「泳ごうとしたんじゃないのか」
「かもね」

 天樹が云う。

「でも。よりによって、雨の日だった」
「それは、」
「川は荒れていて」

 どこまでも、どこまでも、流されて

「苦しかったのを、覚えている」
「そうだろ」

 辰樹は、目を閉じる。

「よく助かったよな」
「気付いたら、病院にいた」
「……どうやって?」
「さあ?」

 天樹は、空を見る。
 日差しが、強い。

「誰かが、……助けて、くれたんだろうな」
「でも、医師様も誰も、どうやって助かったのか、教えてくれなかった」
「……へえ」

 辰樹が呟く。

「カッパか……」
「そう云う話をしたいんじゃない」

 天樹は、あきれて、辰樹を見る。

 けれども、

 辰樹を見て、天樹は、ますますあきれる。

 辰樹は、眠っている。



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