「おお、未央子(みおこ)!」
従姉を見つけて、辰樹は手を上げる。
「辰樹、何ふらふらしてるの」
「俺が、いつふらふらしてるって?」
「あ、ごめん。いつものことでした」
そう云うと、未央子は汗を拭う。
見ると、未央子は、豆を大量に抱えている。
「何それ」
「豆」
「見りゃ判るけど。そんなにたくさん?」
「お屋敷に運ぶのよ」
「ああ。なるほど」
未央子の言葉に、辰樹は頷く。
東一族宗主の屋敷用と云うことだ。
「手伝うよ」
辰樹は手を出す。
「大丈夫」
「大変だろ」
「いいの、いいの」
未央子は歩き出す。
辰樹も続く。
「今度、宗主様のお屋敷の使用人になった子がいてね」
未央子が話し出す。
「その子が、この豆をむいてくれるのよ」
「へえ」
「前は、病院で下働きをしていた子。知ってる?」
「えーっと」
辰樹は考える。
「あの、目がちょっと悪い子か?」
「そうそう」
「にこっとすると、かわいいんだよな!」
「……辰樹」
「でも、従姉さんもにこっと笑えば!」
「どう云う意味」
未央子は、冷たい視線を送る。
「……その子、目の病気が進んでるみたいで」
「うん」
「ご子息様にいじめられないか、心配よね」
「おお!」
辰樹が、うんうんと頷く。
「あの、わがまま太郎か」
「あんた、言葉に気を付けなさいよ」
「ありえるな!」
辰樹が云う。
「だって、あいつ。たまに肉食いてぇ、とか云うんだぜ!」
「ええ!?」
東一族は菜食主義。
けれども、肉を食べること自体は、禁止されていない。
つまり、食べてもいい、のだが。
「そんなこと云うの、ご子息様」
「すごいだろ。そこは尊敬する」
「……そうね」
未央子は、辰樹を見る。
「それで、……食べたことあるの?」
「さあ?」
「食べたのかしら?」
「かもね。だから、ちょっと変なのかも」
「あんた、言葉に気を付けなさいよ」
「未央子だったら、何の肉食べる!?」
「私!?」
「俺だったら、えーっと、にくだんご、からだな!」
「にくだんご!」
にくだんご、は、何の肉なのか。
「やめてよ、辰樹!」
「冗談だよ、未央子」
「だんだん、何の話? になってるわ!」
辰樹は、笑う。
未央子は、豆を抱えなおす。
「それにしても、強い日差しねー」
未央子は、空を見上げる。
辰樹も同じように、空を見る。
強く輝く、お天道様。
そして
雲ひとつない、青空。
「暑い!」
「本当ね」
「川に泳ぎに行こうかな!」
「あんた、遊んでばっかり!」
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