TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「琴葉と紅葉」1

2015年06月19日 | T.B.2019年

 西一族の村では、雨が続いている。

 この時期はいつもそうだ。
 久しぶりの晴れ間も、長くは続かない。

 曇り空の下。
 彼女はぬかるむ道を歩く。

 ゆっくりと、歩く。

「おいおい!」

 彼女の後ろから、突然、声が投げかけられる。

「お前、いつもふらふらしてるな!」

 そう云いながら、誰かが、彼女を追い越す。
 彼女は、その誰かを見る。

 そこに、前村長の孫。

 前村長の孫は、西一族でも、生粋の西一族である。
 その証に、銀髪を有する。

「狩りに行かないやつは、楽でいいよな!」

 前村長の孫に一瞥され、彼女は目を細める。

「そのくせ肉を食うなんて、お前何様だよ」
「やめなよ!」

 見ると、その後ろに、もうひとりいる。

 現補佐役の娘。

 紅葉(もみじ)。

「……この子は、狩りに行けないのよ」
 紅葉が、前村長の孫に云う。
 そして、ちらりと彼女を見る。
「知ってるよ」
「なら」
「でも、さ。行く努力はすべきだろ」
「やめて!」

 前村長の孫は目を細める。

 背を向け、歩き出す。

「まったく、もう!」

 紅葉は、彼女に向き直る。

「ごめんね」
「何が」

 彼女は、紅葉を見る。

「えっと、」

 紅葉は、目をそらす。

 悪気はないのだろう。
 けど
 彼女の目付きは、きつい。

「……私たち、広場へ行くの」
「そう」
「狩りの招集があって」
「…………」
「一緒に、行く?」

「なぜ?」

 彼女が云う。

「私を、笑いものにするため?」

「え?」

 紅葉は慌てる。
「違うよ!」
「なら、なぜ?」
「それは、……」
 紅葉は、少し考える。

 考えて、云う。

「ほら。狩りの準備の手伝いとか、出来るでしょ」
「出来ない」

「紅葉!」

 前村長の孫が振り返り、紅葉を呼ぶ。

「早く行こうぜ!」

「あ、うん」

 紅葉は、前村長の孫を見て、彼女を見る。

 迷って、

 前村長の孫を追いかける。

 彼女は動かない。

 ふたりの姿が見えなくなると、彼女は、足下の水たまりを見る。
 そこに映る、自身の姿を見る。

 どこからどう見ても、西一族。

 なのに、彼女は、狩りに参加したことが、ない。

 ――彼女は、足が悪い。



NEXT

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。