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「辰樹と天樹」17

2016年03月18日 | T.B.2016年

「天樹……」

 誰かの声。

「おい、天樹!」

 天樹は、薄く目を開く。

 ここは、

 ……東一族の村のはずれ。

「しっかりしろ!」
「……辰樹」
「大丈夫か?」

 辰樹の問いに、天樹は頷く。

「……悪い、」

 辰樹は、顔を曇らせる。

「俺のせいで、しくじった」

 天樹は、横になったまま、首を振る。

「辰樹、……身体は?」
「俺は大丈夫」
 辰樹が答える。
「軽かったから、毒もすぐ抜けたらしい」

 辰樹は、天樹を起こそうとする。

「今、病院へ」
「大丈夫」
 天樹は、自身の手を掲げ、それを止める。
「血は、……乾いているな」
「無理だ。動くな」

「大丈夫」

 天樹は、再度云う。

「宗主様への報告は、俺が行く」
「天樹……」
「お前は、病院に向かえ」
「俺の怪我は大したことない」
「だめだ」

 天樹が云う。

「もし、砂の毒が残っていたら危険だ」
「なら、一緒に!」
「それに、砂の浄化薬の作り方を、医師様に届けることが優先だ」

「天樹、」

 辰樹は天樹を見る。

「お前も、連れて行く」
「いや。俺は、宗主様のところに」
「天樹」

 天樹は、目をつぶる。

「宗主様に失敗を咎められるのは、ひとりで十分」
「なら、しくじった俺が行くさ!」
「動けるうちに、その紙を医師様に渡してほしい」

「天樹……」

「辰樹、頼む」

 天樹の目は閉じたままだ。

 辰樹は、立ち上がる。

「すぐに、戻る」
「大丈夫だって」

 天樹は、目を閉じたまま、云う。

「……ここは東一族の村なんだから」

 立ち去る音。

 天樹は、ただ、音を聞く。
 立ち去る音は、やがて、消える。

 天樹は、少しだけ目を開く。
 ひとりで地面に転がったまま、空を見る。

 日が落ちている。
 あたりには、誰もいない。

 そろそろ起きようか。
 戻って、宗主のところへ行かなければならない。
 まだ、やらなければならないことも、ある。

 ……仕方ない。

 天樹は起き上がる。

 と

 身体に痛みが走り、顔をしかめる。

 腕で、肩を押さえる。

 見ると、身体に血が付いている。
 血が、やっと止まったような痕跡。

 天樹は息を吐き、立ち上がる。
 思ったより、動けそうだ。

 ただ、非道い格好、だが。

 人に会わないよう、天樹は、宗主の屋敷に入る。
 宗主がいる場所へは、迷わず、たどり着ける。

 遠のきそうな意識で、天樹は歩く。



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