ふたりは、山を下りる。
山一族の村を出て、西一族の村へ。
山一族の村は、その名の通り、山の奥深くにある。
西一族の村までは、遠い道のり。
彼が前を歩き、琴葉は後ろに続く。
ただ、歩く。
かろうじて、道のようなものがある。
「何か、……」
「何か?」
「獣とか、いそう……」
「獣?」
「獣」
彼はあたりを見渡す。
音を聞く。
「…………」
「…………?」
風の音。
葉が揺れる音。
鳥の鳴き声。
「大丈夫だよ」
彼が云う。
「何事もなく、山を下りられるよ」
「本当に!?」
「そう」
「根拠は?」
「根拠?」
彼は琴葉を見る。
「何となく」
「当てにならない!」
「大きな声はやめて」
「何となくって何よ!」
「山で、大声は駄目だって」
彼は、弓を握り直す。
「山一族にもらった矢もあるから」
いざと云うときは大丈夫。
琴葉は息を吐く。
先を見る。
まだ、歩かなければ、ならない。
「行こう」
彼が歩き出す。
琴葉も続く、が、
「あの、さ」
「何?」
すぐに、立ち止まる。
「あの……」
「…………?」
「足が、限界なんだけど」
「足?」
必死で登ってきた。
少し安心して、足が、非道く痛むのに気付く。
「痛むの?」
「そう、なんだけど!」
「つらい?」
「…………」
痛い。
「えーっと、」
「…………」
「馬を借りる?」
山一族の村に戻ろうと、彼は方向を変える。
琴葉は慌てる。
「馬はやだ!」
「じゃあ、どうする?」
彼は、首を傾げる。
このままでは、日が暮れてしまう。
夜の山は危険だ。
「飛ばす、のは……」
「飛ば??」
「何でもない」
彼の呟きに、琴葉は目を細める。
「平気。行こう」
彼は手を出す。
「何?」
「おぶるよ」
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