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「西一族と涼」8

2014年05月23日 | T.B.2019年

 村の集会所には、村長がいる。

 誠治。
 紅葉。
 それから、村長の補佐役。
 彼は、紅葉の父親に当たる。

 悠也はいない。

 代わりに、悠也の父親がいる。

 悠也の父親が、部屋に入ってきた涼を見て、云う。
「こいつと、狩りは、別の班にさせてくれ!」
「うちもだ!」
 補佐役も続く。

「待て」

 村長が云う。
「順番に話を聞く。……まず、は」
 村長が、誠治を見る。
「狩りは、どこへ行ってきたんだ?」
「はい。それは」
 紅葉が地図を広げ、代わりに答える。
「この、……山間の川です」
「よりによって……」
 村長がため息をつく。
「怪我人がよく出るところ……」
「なぜ、わざわざ危険なところに!」
 悠也の父親が、声を荒げる。
「誰だ、この場所を選んだのは! お前か!?」
 悠也の父親は、涼を見ている。

 涼は、何も云わない。
 誠治も紅葉も、何も云わない。

「お前なんだろ?」
 悠也の父親が、手を上げそうになるのを、村長が止める。
「待て!」
 村長が、涼を見る。
「涼、お前が、この場所を選んだのか?」

 涼が頷く。

「じゃあ、お前の責任だ!」
「やめろ!」
 村長が云う。
「班長は誠治だ。班長の責任も問われる」
「……ああ」
 誠治はうなだれる。
「悠也の怪我はどういう状況で? 獲物にやられたと、本人も云っていたが」
 改めて、村長が訊く。
「どういう判断があったんだ、誠治」
 うつむいていた誠治が、口を開く。
「獲物が二匹、同時に出て……」
 紅葉が云う。
「仕留めたと思った一匹が、まだ生きていて、……油断したの」
「そうか」
「それで、こいつが……」
 誠治が、涼を指差す。
「俺らがいるのに、矢を放ってきたんだ」
「なんだって!」
 再度、悠也の父親が声を荒げる。
「一歩間違ってたら、三人に当たっていたかもしれない!」
「何を考えてる、お前!」
 補佐役が、涼を掴む。

「だから、落ち着けと!」

 村長は、補佐役を見る。
「その手を離してやれ」
 補佐役は、村長を見る。
 舌打ちし、涼を掴んでいる手を、離す。

 村長は、ため息をつく。

「涼」
 村長が、云う。
「誠治の云っていることは、本当か?」

 涼は、この部屋にいる全員を見る。
 けれども、誰とも、目が合わない。

「……本当だ」

「この、黒髪め」
 悠也の父親は、目を細める。
「いくら、村長びいきだろうと、相応の罰が必要ですな」
 悠也の父親は、村長を見る。
「ですよな、村長!」
 村長は、涼を見る。
「それは、涼でなくても、どの村人でも罰が適用される」
 云う。
「……謹慎、か」

「いや」

 補佐役が声を上げる。
「謹慎では、村人は納得できません」
「納得?」
 村長が、補佐役を見る。云う。
「この場合は、謹慎が相応だ」
「相応ではない!」
「過去の事例から見ても、」

「納得いかないのは、こいつが、黒髪だから」

 村長の言葉をさえぎり、悠也の父親が云う。

 張り詰めた空気。

 村長は、息を吐く。
「じゃあ、なんだ?」

「東に諜報員として、行ってもらうのはどうでしょう」

 悠也の父親の言葉に、誠治と紅葉は、目を見開く。
 涼は、目を細める。

「その容姿だ。格好の仕事ではないですか!」
「何を云う!」
 村長は、声を上げる。
「その年で危険すぎる!」

 実質、殺されに行くようなもんだ、と。

「仕方ない。罰ですから」
 補佐役が云う。
「いい情報を、持ち帰ってきてもらいましょう」
「彼には、常々そんな噂がありましたからな!」

 村長は、顔をしかめる。

 お構いなしに、悠也の父親と補佐役は、部屋をあとにする。

 村長はため息をつき、誠治と紅葉を見る。

「出て行ってくれないか」
 誠治と紅葉は、顔を見合わせる。
「ふたりで、話をさせてくれ」

 紅葉は、涼を見る。

 涼は、顔色ひとつ、変えていない。

「紅葉、行こう」
 誠治に促され、紅葉は、部屋を出る。

 集会所を出て、誠治が云う。

「厄介者払いだな」
「誠治……、ひどい」
 紅葉は、涙声で云う。
「涼は、私たちを守ろうと、矢を打ってくれたのよ」
「獲物に当たったのは、偶然だろ」
「そんなこと……。ない」
 紅葉が云う。
「悠也の怪我だって、涼が上手いこと応急処置してくれたから……」
 誠治が、云う。
「悠也の様子、見に行こうぜ」
 紅葉はうつむく
 首を振る。

「……私、涼を待ってる」



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