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「琴葉と紅葉」7

2015年07月17日 | T.B.2019年

 夕方。

 琴葉は、広場に向かう。
 そこには、大勢の西一族が集まっている。

 皆、狩りから戻って来たのだ。

 狩りの道具を片付けている者。
 肉を捌いている者。
 ただ、談笑している者。

 ほとんどが、琴葉には気付かない。

 琴葉はその面々を見て、ひとつの班に近付く。

「ねえ」

 琴葉が声をかけると、ひとりが顔を上げる。
 前村長の孫。
「何だよ」
「ちょっと分けてほしい」
「分けるだって?」
 前村長の孫は、目を細める。
「何を?」
「それ」

 琴葉は、指を差す。

 そこには、この班が獲ってきた、いくつかの獲物。

 前村長の孫は、舌打ちする。

「狩りに行ってないのに、何を云う」
 さらに、
「図々しいな、お前」

 横にいた紅葉が顔を上げ、止める。

「やめなよ」
「だって、こいつ、いつもふらふらしてる」
「やめなって」
「いつも、何をやってんだ? 医者の勉強か?」

 琴葉は目を細める。

「村人には、狩りの獲物は公平に配られるでしょ」
 紅葉が、琴葉に云う。
「全部の班が戻ってきたら獲物を分けるから、ちょっと待ってて」

「おいおい。公平だって?」

 前村長の孫が、せせら笑う。

「狩りに行かないやつに、不公平じゃないか」

 琴葉が云う。

「……ちょっとだけ分けてよ」
「何だよ、うるさいな」

 前村長の孫は声を上げ

「おい!」

 班の、もうひとりを呼ぶ。
 そのひとりが、顔を上げる。

 琴葉は、はっとして息をのむ。

 そこに

 黒髪の彼、がいる。

「お前の分けてやれよ」

 黒髪の彼は、琴葉を見る。

 目が合う。

「紅葉」
「何?」

 紅葉が返事をする。

 彼は立ち上がり、琴葉に近付く。
 紅葉は首を傾げる。

 そう、

 呼んだのは、紅葉ではない。

 琴葉のことだ。

 彼は、獲物を差し出す。

 琴葉は、彼を見る。
 そして、彼が持つ、獲物を見る。

 紅葉の目の前で、紅葉と呼ばれ、気まずい。

 琴葉は、獲物を受け取る。
 すぐに、背を向け、歩き出す。

 走り去りたい。
 でも、走れない。

「お前、お礼云えないのか!」

 後ろで、前村長の孫が、叫んでいる。



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