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「成院とあの人」9

2014年07月08日 | T.B.1999年

「成院!!?」

深夜にぽつりと現れた成院に、
東一族の医師は驚きの声を上げる。

「麻樹医師(せんせい)、これ」

薬が入っている瓶を差し出し、
成院は事の経緯を説明する。
医師は成院をみつめる。

「本物、だろうか?」

「……わかりません」

そう、あまりにも事が上手く運びすぎている。
西一族の親切心、と信じられたらいいが
2つの一族の間柄を考えるとそれも難しい。

「それでも、試すしかないだろうな」

医師が言う。

「良くやった成院。大変だっただろう」

大変か、
それはそうだけれど、と成院は首を振る。

「生きて帰れたのが不思議なくらいだ、
 でも、これで弟は、戒院は助かる……かな」

出来ることはした。
後はもう、信じることしかできない。

「大丈夫だ。
 君に出来ることはここまで、だ
 後は任せて休んでおきなさい」

村に帰り着いて安心したせいか、
やけに全身を疲れが襲う。
西一族の村でもそうだったが、気が張っていたのだろう。

「麻樹医師、少し水を飲んでくる。
 喉がひどく渇くんだ」

席を立とうとした成院の言葉に医師が振り返る。

「成院、ちょっと、こちらに来なさい!!」

医師の剣幕に、成院は言葉のままに従う。
医師は成院の血を採取する。
そのまま、それを何かの薬に浸すと成院に向き直る。

「成院、いつからだ!!」
「……え?」
「喉が渇くようになったのはいつからだ?
 渇いた咳や、目眩はしないか?」

「目眩……?」

自分の様子に気圧されている成院に気付き
医師は、すまない、と一呼吸置いて、告げる。

「成院、薬は―――君に使う」

「え?
 だってそれじゃ、戒院が」
「薬は1人分しかない。
 君が取ってきた薬だ、君が使うべきだ」

医師は試験薬を見つめる。
成院の血を垂らした部分の色が変わっている。

そういえば、と成院は思い出す。
西一族と対峙した時、自分が倒れたのは
目眩からだったのだろうか。

あの時、西一族は言っていた。

気付いていないのか、おまえ、と。
それはつまり。

「成院。君も感染症だ」



「薬は一人分だ」

湖の舟の上、西一族は小さく呟く。


「選ぶんだな、自分か弟か」


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