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「辰樹と天樹」11

2015年09月25日 | T.B.2016年

「ここ、場所借りてもいい!?」

 辰樹の声に、畑で収穫をしていた東一族が顔を上げる。

「何だ、辰樹。毎年のあれか?」
「そうそう。毎年のあれ」

 辰樹は、道ばたの落ち葉を見る。
 いち早く収穫が終わった畑の隅を借りて、そこに、落ち葉を集める。

 辰樹の家は、
 父親が占術師。
 自身は戦術師。
 そのため、畑を所有していない。

 辰樹は、これでもかと落ち葉を集めると、今度は、別の畑に向かう。

「兄さん、兄さん!」
「何だ、辰樹か」
 その畑で作業している東一族が、手を上げる。
「つまり、毎年のあれ、だな」
「そうそう。毎年のあれ」
「よし、持ってけ!」

 そう云って、取り出したのは

「ありがとう、兄さん!」

 大量の芋。

「焼くぜ!」

 辰樹はひとりで、声を上げる。

「焼くぜ、芋!!」

 辰樹の、毎年の定番。

 落ち葉の中に、芋を入れ、火を付ける。
 火の様子を見ながら、辰樹はさらに落ち葉を集める。

 最初の芋が焼けると、
 辰樹はそれを、畑を借りた人と、芋をくれた人に配る。

 辰樹は、さらに落ち葉を集める。

 次の芋が焼けると、
 辰樹は、自身の家と、従姉の家、叔父の家に持って行く。

 辰樹は、もっともっと、落ち葉を集める。

 芋を焼くのが、楽しくて仕方ない。

「芋ー。おいしい芋ー!」

 辰樹は歌を歌う。

「……辰樹」

「お、天樹じゃん!」
「これは、毎年のあれ、か」
「そうそう。毎年の、」
「ひとり焼き芋大会」

 云われて、辰樹は笑う。

 火を突きながら、歌を歌う。
 焼けた芋を、食べる。

 天樹は、その横に坐る。

「天樹。ほら」

 辰樹は、焼けた芋を差し出す。

「食えよ。こりゃ上手い!」
「俺はいいよ。辰樹が焼いた芋だろ?」
「遠慮するなって」

 天樹は首を振る。

「何だよー。天樹は少食だな」
 辰樹は、やれやれと云う。
「もっと食べないと、大きくなれないぞ!」
「……うーん。そうだね」

 天樹のその様子を見て、辰樹が云う。

「じゃあ、天樹の母ちゃんに持って行ってやれよ」

 辰樹は、再度、焼けた芋を差し出す。
 天樹はそれを見る。

「遠慮するなよー」
 辰樹はいい笑顔を見せる。
「この芋、俺のじゃないけどな!!」

 天樹は、少し考える。

 考えて、云う。

「じゃあ、3つちょうだい」
「3つ?」

 そうか、と、辰樹は頷く。

「天樹の父ちゃんと母ちゃんと、兄弟の分だな」
「そんなもん」
「これを食えば、天樹の父ちゃんと母ちゃんと弟は大きくなるぜー!」
「……何。うちはみんな小柄な設定なの?」
 天樹は焼けた芋を受け取る。
「あと、弟じゃないし」
「お。兄さんがいるのか?」

 うんうん、と、辰樹は頷く。

「そうか。天樹には兄ちゃんがいるのか!」

 天樹は答えない。
 空を見る。

「空が、高い」
「だな!」

 直に、木々は葉を散らし出す。

 ほんの少し、厳しい時期がやって来る。



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