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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「涼と誠治」11

2016年10月07日 | T.B.2019年

「誠治、とか云ったな」

 馬に乗ったまま、山一族は誠治を見る。

「ああ、なるほど」
 山一族は頷く。
「お前のことも知ってるよ」

 山一族は、弓で誠治を差す。

「狩りが上手いんだってな」

「なぜ、知ってる!」

「知ってるよ」

 山一族は笑う。

「秘密と云うのは、お互い知ってるものなんだよ」
「何だって?」
「知らないのは、若造だけだ」

 山一族は、紙を取り出し、丸める。

「情報交換するなら、黒髪じゃなく、」

 誠治。

「お前の方だってことも、俺は判るさ」

 山一族は、丸めた紙を放る。

 その紙は、誠治の前に転がる。

「お前っ!」
「その手紙は、誠治。お前宛てだ」

 山一族が、再度笑う。

「ほかの誰にも見せるな」
「何なんだよ!」

「黒髪」

 山一族は、涼を見る。

「余計なことは云うな。お前、頭よさそうだから判るよな」

 涼は、誠治を見る。

 誠治は、足下を見ている。

 そこに転がる、手紙を。

「誠治」

 涼が声を出す。

「どうする?」
「どう、するって」

「捕らえるか?」

 それとも

「殺すか?」

 誠治は、思わず涼を見る。
 その額には、汗が伝う。

「どうしたらいいか、指示を出せ」

 涼が云う。

「お前の指示に従う」
「涼、」
「相手はひとりだ。たいしたことない」

 涼は、刀を握る。

「へえ」

 山一族は馬に乗ったまま。
 涼と誠治を見下ろす。

「まだ、西一族にもいるんだな」
 山一族が云う。
「そうやって、他一族と戦えるやつが」

 誰も、

 動かない。

 音もしない。

 風が、吹く。

 と、

「涼!」

 山一族が動こうとしたのに気付き、
 それより先に、誠治は声を上げる。

「退こう」
「誠治」
「すぐに、退こう」

 涼は誠治を見る。

「俺たちが勝手に動けることじゃない」
「…………」
「……な?」
「そうか」

 涼が云う。

「判った」



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