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「海一族と山一族」21

2017年08月22日 | T.B.1998年

「トーマ、遅い」

長の家へと駆けていく途中で
同じ一族のミツナと合流する。

「まずいことになったな」

トーマは走るペースをミツナに合わせながら言う。
長の家に辿り着くまでに
少しでも状況をまとめておきたい。

「山火事、なのかあれは?」
「分からないが
 雨でも降ってくれたら」

空を見上げるが
それを期待するのは難しそうだ。

「山一族の村へ
 行く事になるのか?」

どうだろうか、と
ミツナが言う。

「緊急事態とは言え
 不可侵の定めがある。
 救助の求めがなければ動きにくい」

それに

「まずはうちの村の事からだ。
 こちらに火の手が及ぶのを防いだ上での
 援助じゃないのか?」
「そうは言ってもあんな火事だ
 助けに行った方が」

彼の言うことは正しい。
まずは、自分の村を守ってからの事。

どうしたんだ?と
ミツナが首を傾げる。

「トーマは気にしすぎだ。
 今の時点ではあくまで他の一族の事だ。
 その都度、我が事のように受け取っていたら大変だぞ」

割り切れ、とミツナが言っている。
まさか、
トーマに山一族の知り合いが居るとは
思ってもいないのだろう。

「まぁ、まずは、長の考えを聞かないと」

まったく、と
ミツナは言う。


「今日は漁どころじゃないな」


ふ、と
その言葉にトーマは足を止める。

「おい、トーマどうした?」

「先に行っててくれ」
「……俺、言い過ぎたか?」
「違う、気になることがある」

ミツナの言葉通り。
今日はこの騒ぎで漁は行わないだろう。
皆が山を見上げている。
気がそちらにとられている。

ならば。

今日のこの出来事が
誰かが意図した悪意なら。

「もし、ミナトかカンナを見かけたら
 港に来るように言ってくれ」

気のせいであってくれ、と
今来た道とは逆に
トーマは駆け下りる。


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